BRIDGE OF DREAMS YURI

インタビュー | 2025.3.21  Fri.

パワーリフティングは、やればやるだけ伸びる競技ではないんです

そう語るのは、パワーリフティング歴2年のYURIさん。息子が通う空道の道場を訪れたことをきっかけに、その魅力に引き込まれた。

今ではパワーリフティングが生活の中心。年齢や家庭、仕事の有無に関係なく、人は情熱を注ぐことができる。

そう実感する彼女に、競技との出会いやその面白さについて語ってもらいました。

YURI

生年月日:1986年5月22日
出身地:宮城県

経歴:2児の母/会社員/パワーリフター

出産後、娘と一緒にダンスを習いながら、コロナ禍を経て息子が通っていた空道を自身も始める。そこでウェイトトレーニングの楽しさに目覚め、約1年半前にパワーリフティングと出会う。

現在は、育児と仕事を両立しながら、自分磨き(ボディメイク)を楽しみ、パワーリフターとして成長するために挑戦を続けている。

幼少期にはモダンバレエやスノーボード(ハーフパイプ・スロープスタイル)を経験。

交通事故をきっかけに気づいた
“休む”ことの重要性

ー本日はインタビューよろしくお願いいたします。昨年、交通事故に遭われたとうかがいましたが、その後の体調やコンディションはいかがでしょうか?

YURI)今はだいぶ回復してきていますが、少し前までは心身ともに落ち込んでいました。もともとオーバーワーク気味で鎖骨を痛めていたところに、昨年11月に交通事故でむち打ちになってしまって…。しかも、コーチングを受けながらも成果がなかなか出ない時期だったので、余計に気持ちが沈んでしまいました。

でも、しっかり休んだからこそ、普段トレーニングできることのありがたみを改めて感じましたし、休んだからこそ気づけたことも多かったんです。今では『休んだ期間も無駄じゃなかったな』と思えるくらい、少しずつ回復しています。オーバーワークで痛めていたところもあるのでまだ完全では無いですが、今はかなりいいペースで復調できています。 

ー回復に向けて、特に意識していたトレーニングやケアはありますか? また、復帰にあたって特に大変だったことは何でしょうか?

YURI)コーチと相談してトレーニングの頻度を週4から週3に変更しました。もともと週4でコーチングを受けていたのですが、泊まり勤務含めかなりの不規則勤務なこともあり、コンディションが悪いままのトレーニングが続き、回復が追いつかず体を傷めてしまっていたんです。

この競技は、単純に『やればやるだけ伸びる』ものではないので、一度考え方や競技に対する向き合い方をリセットして、オフをしっかり取ることが必要だと考えるようになり、トレーニング頻度を見直しました。

事故で強制的に休むことになったことで、『オフの取り方がどれだけ大事か』を痛感しました。今では『オフもトレーニングの一環』『休むことも勇気』というコーチのアドバイスがよくわかります(笑)

そこが、今回のリハビリや復帰において一番大きく変わった点ですね。

事故の影響を考え、休みながら調整していると語る

空道が導いたパワーリフティングの世界

ーコーチングを受けながらトレーニングされているとのことですが、そもそもパワーリフティングやベンチプレスを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

YURI)子供が二人いまして娘はダンス、息子が空道という打撃系総合武道を習っています。最初は娘と一緒にダンスを習っていましたが、コロナ禍の時、休業期間中に何もできなくなってしまい、何かできないかと考えていた時に、息子が通っている道場(中川道場)の先生が、日中にパーソナルでキックボクシングのミット打ちを行っているクラスを開催していることを知りました。金額もかなりお手頃で、誰でも参加できる価格設定だったので、そこで初めてキックボクシングを体験しました。先生のすすめもあり、それがきっかけで、私も空道を始めることになったんです。

空道の稽古では、どうしても男性とスパーリングすることが多く、力負けしてしまうことがほとんどでした。そんな中、道場の先生に『ウエイトトレーニングもやってみると面白いですよ、ベンチプレスをやってみませんか?』と言われ、それが私がベンチプレスを始めたきっかけです。実は、道場の先生がベンチプレスの先生でもあります。

空道のトレーニングの様子(本人提供)

ーそういった経緯があったんですね。今ではSNSで格闘技が好きだと公言されていますが、もともとは格闘技に興味があったわけではなかったんですね?

YURI)そうですね。最初は空道がきっかけで、そこから『RIZIN』に興味を持ち、総合格闘技を見るようになりました。朝倉兄弟のファンで試合も観るようになり、格闘技がすごく好きになりました。

ー学生時代にも何かスポーツをされていたご経験はあるのでしょうか?

YURI)競技としてスノーボードのハーフパイプとスロープスタイルをやっていました。高校生や大学生の頃は、スノーボードに明け暮れていて、バイトとスノーボードの繰り返しの日々でした。

ースノーボードから一転、現在はパワーリフティングに熱中されていますが、その中で特に面白さや魅力を感じた部分はどこですか?

YURI)パワーリフティングの面白さや魅力は、シンプルに重量でどれくらいの強さかが見えるところですね。トレーニングをしていくと、最終的にはボディメイクかパワーリフティングに行き着くことが多いと言われていますが、私は格闘技が入口だったので、強くてカッコイイを追求したい!という気持ちがありました。ビッグスリーをやるからには、記録として残したいという思いがあり、パワーリフティングを始めました。単にスクワット、ベンチプレス、デッドリフトをしているだけでなく、少しでも記録が上がることが面白く、そしてその記録が大会で認められることに魅力を感じています。強さとカッコよさを両立できるところが、大きな魅力だと思います。

ー今は仙台を活動拠点にされていますよね。

YURI)私は仙台にあるSTEEZEというジムに所属しています。このジムには強い選手が多く、日本のパワーリフティング業界の中でも知名度があると思っています。ジムのオーナーは私のコーチでもあり、コーチング界でも非常に有名な方で、多くの強い選手を指導しています。そういう意味でも、所属しているジムのレベルは高いと感じています。ジムの会員さんは男女問わず強くて優しい方ばかりで、環境にも恵まれていると思っています。

ただ、パワーリフティング自体の競技人口は全国的に少なく、ウエイトリフティングと混同されることもあるほどです。例えば、昨年出場したストロングガールズジャパンという大会では、『グラインド賞』(日本語でいう「粘り賞」)をいただいたのですが、こういった賞を受賞したのは初めてでした。これまで県大会レベルでは参加者が少なく、私の階級で1人しかいないこともあり、そのまま優勝というケースもありました。そのため、大勢の選手の中から選ばれる形で受賞したのは、とても嬉しく貴重な経験でした。

2024年ストロングガールズジャパンで『グラインド賞』獲得

公式大会とはひと味違う!
女性パワーリフターの特化大会の魅力

ー今お話に出たストロングガールズジャパンという大会について、詳しく教えてください。

YURI)ストロングガールズジャパンは、女性限定のパワーリフティング大会で、河西香南 さんという有名な女性パワーリフターの方が主催されています。私は第2回大会から参加していますが、公式大会とはまた違った盛り上がりを毎回感じています。

この大会は、まるでお祭りのような雰囲気で、初心者の方でも参加しやすく、重量を持ち上げると、周りのみんなが一緒に喜んでくれる温かい雰囲気があります。また、有名なパワーリフターの方々が補助についてくださり、盛り上げ上手な方が多いので、会場全体が一体となって楽しめる大会です。この大会がきっかけでご縁ができた方、仲良くなれた女性リフターさんも多くいらっしゃるので、大会を開催して下さるストロングガールズ様には大変感謝しています。

パワーリフティングに興味がある女性や、大会に出てみたいと考えている方には、ぜひおすすめしたい大会です。今後は地方開催も予定されており、女性パワーリフターの育成や横の繋がりもできる貴重な場になっていると思います。

受賞パフォーマンスを動画で振り返った

ー女性の方にももっとパワーリフティング業界に入ってきてほしいですね。話を戻しますが、先ほど事故の影響以外にも、もともと怪我をされていたというお話がありました。ご自身では、オーバーワークしやすい性格だと感じますか?

YURI)オーバーワークはしやすいほうです…(笑)   パワーリフティングの練習では、RPEという数値を基にメニューを実施していくのですが、仕事の特殊性からオーバーワーク気味になり、結果的に重量が伸びないことが多いと感じています。もともと負けず嫌いな性格で、与えられた課題はすべてクリアしたいという思いが強いんです。この性格はパワーリフティングに限らず、仕事でも同じで、『オールクリアは当然、できれば120〜130%で返したい』と思ってしまうので、つい無理をしてしまうことがあります。事故で怪我をして休んだことや、トレーニングの日数が減ったことで逆にしっかり集中できるようになり、今は無理をせず質の高いトレーニングをすることを心掛けています。

ーお仕事の合間にトレーニングされていると思いますが、スケジュールはどのように調整されているのでしょうか。

YURI)私の場合、コーチが週ごとにメニューを組んでくれています。基本的に三種目(スクワット、ベンチプレス、デッドリフト)を行う日が週に2回あり、『今週はこの日にトレーニングするので、三種目の日は最初と最後にお願いします』とか、『最初と2日目にが三種目の日で、最後はベンチプレスと補助の日でお願いします』といった形で、毎週調整してもらっています。

ーそれは食事とかも含まれるんですか?

YURI)食事の管理はあくまで自分で行っているので、完全に独学ですね。ボディメイクの大会に出場していたわけでもないので、基礎代謝や摂取カロリー、消費カロリーのバランスを自分で試しながら学んできました。3~4年続けているうちに、どれくらい食べて、どれくらい動けば、どの程度体重が減るのかが感覚的にわかるようになったので、大会前の減量もそこまで神経質にはなっていません。

ー減量などで気を使っていることはありますか?

YURI)当日の階級をクリアしていれば問題ないですが、中にはボクサーのように激しい水抜きをする選手もいます。しかし、パワーリフティングの場合、当日検量してから大体2時間後には試技が始まるため、水抜きをしすぎるとパフォーマンスに影響が出てしまうので日頃から体重管理をしています。

パワーリフティングで築く、健康で美しい生き方

―YURIさんは今、トータル何キロくらい上げられるのでしょうか。

YURI)私の階級だと一般でトータル300キロ重量がないと全国に出られなくて、今は270ちょっとぐらいです。まだ一般標準には届いてないので、いずれは一般を目指したいのと、来年以降はマスターズ大会(40歳以上の大会)があって、その全国の標準記録はすでに持っているので、来年の7月の全日本マスターズで成績を残したいと思っています。 

ー今、YURIさんを拝見すると、どこにそんなに重い重量を挙げられる力があるのだろうと思うのですが、細身ですし、服を着ているとパワーリフティングをされている方だとは全くわかりませんね。

YURI)服を着ていると全然そういうのをやっている人には見えないとよく言われるんですよ(笑) でも、脱ぐとなかなか筋肉はあるんです。特に脚の太さはなかなかで、体重は変わっていないのに、仕事の制服は二サイズぐらいアップしました(笑)

ー本当に、パワーリフティングをされているような体には見えなかったので、ちょっと不思議だなと思っていました(笑) 怪我の影響もあるかもしれませんが、次の大会はもう決まっていますか?

YURI)来年のマスターズ大会である程度成績を残したいと考えています。今年は怪我の具合を見ながら、夏ごろに他県のオープン大会に出るか、無理そうであれば冬まで調整を延ばすか、コンディションと相談しながら進めていきたいと考えています。まだパワーリフティングを始めて2年も経っていないので、無理せず参加できる大会に参加して、自分の現在の実力を確認できればと思います。

終始和やかな雰囲気で進んだインタビューだった

ー今後の目標として、トレーニングにどのように取り組んでいきたいか、またどのような目標を掲げているかについてお聞かせいただけますか?

YURI)まずは、一般の標準記録であるトータル300キロを目指しています。始めた年齢は遅いですが、それでもマスターズではなく、一般の若い選手たちと混ざって全国大会に出てみたいという思いがあるので、諦めずに目指していきたいです。また、来年以降はマスターズの大会にも出る予定で、いずれは40歳以上の大会で52キロ級の上位を目指したいと考えています。

さらに、パワーリフティングの選手として成長していきたいという思いはもちろんありますが、同時にボディメイクも兼ねて取り組んでいきたいです。パワーリフティングは、年齢に関係なく始められる競技ですし、50歳、60歳になっても現役で頑張っている選手がたくさんいる生涯スポーツだと思っています。そうした魅力も発信しながら、健康的で美しく生きることをテーマに取り組んでいきたいと思っています。

ー最後に、同じようにトレーニングに励む女性や、これから競技を始めてみたいと考えている方々にアドバイスがあれば、ぜひお聞かせください。

YURI)パワーリフティングは、誰でも挑戦できる競技です。大会に出るために必ずしも特定の重量を持たなければならないわけではなく、あくまで自分との戦いで、記録を伸ばしていくことが楽しさの一部です。ビッグスリーに興味を持ったら、ぜひ大会に出てみてください。記録が伸びることで自己肯定感も高まり、モチベーションも上がります。スポーツをやりたい、筋トレをしたい、トレーニングに挑戦してみたいという人には本当におすすめの競技です。女性の参加者がもっと増えることを心から願っています。

また、いくつになっても家族ができても仕事があっても、人は色んなことに挑戦できるし、少しの努力でキラキラできます!選手としてトレーニングを積み重ねながら健康的で強くカッコよく、そして女性としての美しさも兼ね備えられるよう目指しながら、楽しく生きていきたいです。

ーパワーリフティングをされている女性と初めてお話しができ、貴重な経験でした!怪我に気を付けて、今後も競技を楽しんでください。

YURI

RDX Japan編集部
インタビュアー  上村隆介

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