インタビュー | 2026.7.6 Mon
「「メイクをするなら練習をしろ」というスポーツ界の風潮を変えたい。」
昨今、メイクをして挑む女性アスリートは珍しくないが、未だ偏見が残るのも現実だ。
そんな選手たちに正しいメイクの仕方や在り方を伝え、背中を押すのが「スポーツビューティートレーナー®」の福岡美波さんだ。
自身も主将として高校時代はサッカーで全国優勝を経験。
不登校の克服や様々な職歴を経て独自の領域を確立した彼女の軌跡と、描く未来に迫った。

福岡 美波(ふくおか みは)
生年月日:1988年1月23日
出身地:静岡県静岡市清水区
資格:小学校教諭免許
中学校教諭免許 (保健体育)
高等学校教諭免許 (保健体育)
Natural Beauty school認定
メイクセラピスト講師
スポーツビューティートレーナー®
経歴:主将を務めていた順心高校では全国ベスト8。その年に行われた(冬)U-18全日本女子サッカー選手権大会で静岡県選抜として全国優勝。その後、山梨大学で体育教員免許を取得。銀行員や美容部員を経て独立し「スポーツビューティートレーナー®︎」を創設。アスリートの肌悩み改善やメンタル支援、コスメブランド運営を手掛ける。
スポーツ現場に「美容」という新たな風を
―私自身「スポーツビューティートレーナー®︎」という職業を福岡さんのInstagramを見て初めて知りました。まずは福岡さんが現在活動されているお仕事の具体的な内容について教えてください。
福岡)一言で言えば「スポーツと美容を融合させた専門家」として活動しています。メインとなっているのは、なでしこリーグの「FCふじざくら山梨」でのビューティーパートナーとしての活動です。選手たちへのスキンケア指導やメイクレッスン、さらにはJリーグでのフェイスペイントシールプロジェクトのプロデュース、学生アスリート向けの身だしなみ講座など、活動は多岐にわたります。
また、「メイクセラピスト講師」としての資格も活用し、個人アスリートのサポートも行っています。単に外見を整えるだけでなく、メイクを通じて内面的な変化を促し、自信を持って競技に向き合える心のサポートを重視しています。

―聞き馴染みがあまりない職業かと思いますが、職業活動を始めた当初、周囲の反応はいかがでしたか?
福岡)当初はやはり、否定的な声が少なくありませんでした。「スポーツにメイクなんて必要なの?」「試合をすればどうせ崩れるのに、なぜやるの?」といった視線です。日本のスポーツ界には、今でも「スポーツ=すっぴん、汗を流して泥臭く努力するもの。美しさを気にするのは不謹慎だ」といった強い固定観念があります。
でも、私には確信がありました。実際に現役の選手たちにアプローチしてみると、反応は全く逆だったんです。「実はずっと知りたかった」「屋外競技で肌荒れや紫外線に悩んでいるけれど、誰に相談すればいいか分からなかった」という声が圧倒的に多かった。選手たちの潜在的なニーズを肌で感じたことが、この活動を本格的に立ち上げる大きな原動力になりました。
―実際に、スポーツ選手たちはどのような悩みを抱えているのでしょうか。
福岡)例えば、FCふじざくら山梨の選手たちの場合、移籍によって環境が変わり、乾燥や寒暖差でお肌がボロボロになってしまったという切実な悩みがありました。また、メディア出演や引退後のキャリアを見据えた際、社会人としてのメイクが全く分からないという不安を抱えている選手も多いです。
アスリートは一般の方に比べてメイクをする機会が限られていますが、一人の女性として「綺麗でありたい」という願いは当然持っています。その気持ちを「不謹慎」として押し殺すのではなく、むしろエネルギーに変えていくサポートが必要だと感じています。
メイクは「心のユニフォーム」をモットーに
―福岡さんは、メイクのことを「心のユニフォーム」と表現されていますね。この言葉に込められた思いを教えてください。
福岡)アスリートがユニフォームを着る時、それは「戦うスイッチ」を入れる瞬間ですよね。私にとって、メイクもそれと同じなんです。ベースメイクを整え、眉をキリッと描く。そのプロセスが、自分を鼓舞し、戦うモードへと引き上げてくれる。私自身、現役時代にそうした実感を持っていました。
また、スキンケアは単なる美容ではなく、過酷な紫外線から肌を守る「セルフケア」であり、競技に100%集中するための準備でもあります。見た目が整うことで自己肯定感が上がり、それがプレー中の堂々とした態度や、土壇場でのメンタルの強さに直結する。美容はパフォーマンス向上の一翼を担うツールなんです。

―確かに野外でのスポーツは紫外線対策も必要ですよね。スポーツ選手でも綺麗にいたいというのは当たり前な気持ちですよね。福岡さんは保健体育の教員免許もお持ちですが現在の活動で役立つことはありますか。
福岡)保健体育の教員免許があることで大学で講義することで説得力も増しますし、大学で学んだ体育スポーツ科学や心理学の知識は、今、非常に生きています。「なぜこのケアが必要なのか」「どうパフォーマンスに影響するのか」を科学的根拠を持って説明できるので、選手だけでなく、保守的な考えを持つ指導者の方々にも納得していただけやすいんです。
例えば、メイクが崩れないための指導でも、「引き算と丁寧な保湿」を理論的に伝えます。崩したくないからと厚塗りをするのではなく、水分と油分のバランスを整えるスキンケアを徹底し、薄く密着させる。そうしたプロの技術を、スポーツの現場に即した形で提供しています。
サッカーに救われた少女時代と、直面した「現実」
―福岡さんの原点についてもお伺いします。元々はサッカー選手としてプレーしていたとのことですが、サッカーを始めたきっかけを教えてください。
福岡)実は小学校2年生の時、転校による環境の変化に馴染めず、学校に行けなくなってしまいました。お腹が痛くなって、どうしても教室に入れない。そんな時、母の勧めで通い始めたのが、スポーツ少年団(小学校女子チーム)でした。
もともと体を動かすことは好きでしたが、サッカーに夢中になるうちに、不思議と学校に対する不安が和らいでいったんです。放課後のサッカーが楽しみで、気づけば学校にも通えるようになっていました。サッカーは、私にとって人生を救ってくれたターニングポイントであり、精神的な支えそのものでした。
―サッカーをすることでメンタル面が変わってきたんですね。そこから全国レベルの選手として活躍し、高校時代には日本一にも輝いています。相当ストイックな学生時代だったのではないですか?
福岡)常に日本一を目指すプレッシャーの中にいましたね。高校は全国優勝するために集まった精鋭たちのチームで、ゲームキャプテンも務めました。150cmという小柄な体格でしたが、マンマークで相手の主力選手を徹底的に抑え込む「嫌がらせ」のような泥臭いプレーが持ち味でした(笑)
あの頃培った「勝ちにこだわる執着心」や、地道な努力を積み重ねる姿勢、チームを俯瞰してまとめる広い視野は、今のビジネスを進める上での大きな基盤になっています。

―実際、全国でも優勝出来るレベルの選手だったわけですがプロ選手としてキャリアを積むことは考えていなかったのでしょうか。
福岡)その当時は考えてました。時期的に北京オリンピックも目指したいと思っていましたから。ただ当時の女子サッカー界は、今ほどプロとしての環境が整っていませんでした。プロ契約を結べる選手は一握りで、サッカーだけで食べていくのは現実的に非常に厳しかった。さらに膝に大きな怪我を負ってしまったこともあり、「サッカーは続けたいけれど、経済的な自立も考えなければならない」と、現実を直視したんです。
そこで一度サッカーからは距離を置き、社会経験を積むために銀行への就職を決めました。教員免許を取得していたので、いきなり教育現場に出る前に、一般社会の厳しさを知っておきたいという思いもありました。
キャリアの統合。銀行、美容部員、そして起業へ
―当時はなでしこジャパンのW杯優勝前で、女子プロ選手の待遇も今よりずっと厳しい時代でしたよね。プロへの想いを胸にしまい、大学卒業後は静岡銀行、さらには美容部員へと進まれました。一見バラバラに思えるキャリアですが、現在の活動にはどのように繋がっているのでしょうか?
福岡)銀行員時代は、数字に対する知識や、お客様との信頼関係をゼロから築く重要性を叩き込まれました。その後、結婚・出産を経て、「やはり美容の道に進みたい」と飛び込んだ美容部員の世界では、何千人ものお客様の悩みを聞き、魅力を引き出すカウンセリング力を磨きました。
スポーツ、教育、金融、美容。これら全ての経験が、一つに繋がったのが「スポーツビューティートレーナー®︎」でした。銀行員時代のビジネス視点があったからこそ、ただの「好き」で終わらせず、商標登録をしてライセンス制度を作るという経営的な発想ができましたし、美容部員としての圧倒的な接客数があったからこそ、アスリート個々の悩みに対してパーソナルな解決策を提示できる。無駄な経験は一つもなかったと、今心から感じています。
―ご自身のブランド「SELFIRO BEAUTY®︎(セルフィーロ ビューティー)」にも、その経験が反映されているのですね。
福岡)ブランド名は「セルフ(自分)」と「色」を組み合わせた造語です。「一人ひとりが自分らしく、自分の色で輝いてほしい」という願いを込めました。
コンセプトは、スポーツという過酷な環境下でも耐えうる「崩れにくさ」と、肌への「優しさ」。そしてプロの現場で使われる高機能なツールを、一般の方にも使いやすい形で届けること。日常に溶け込むシンプルで洗練されたライフスタイルブランドを目指しています。

「スポーツ×美」で芽生える、次世代の新しい可能性
―近年、他分野で女性アスリートが活躍する時代、美容への意識も少しずつ変わってきているように感じますが、福岡さんはどう見ていますか?
福岡)文化の違いのせいか海外経験のある選手ほど、おしゃれを楽しみ、自分を磨くことに積極的です。海外では「自分を表現すること」が当たり前で、それが自信に繋がるという文化がありますから。
一方で、日本のスポーツ界には、まだ「見えないプレッシャー」が存在します。明文化されたルールはないのに、暗黙の了解として「おしゃれ=不真面目」と捉えられてしまう。
でも、最近は「眉毛だけはキリッと描いて戦いたい」という相談も増えています。こうした小さな変化を積み重ねて、指導者の方々の意識も変えていきたい。美容はリフレッシュにもなるし、心を守る盾にもなる。それを伝えていくのが私の使命だと思っています。
―今でも『おしゃれをする時間があるなら練習しろ』というような厳しい風潮が一部に残っていますよね。ただ、選手たちの意識が変わっていく中で、最近は女性アスリートだけでなく、男性アスリートからの相談も増えているそうですね。男性からは具体的にどのような悩みが寄せられるのでしょうか?
福岡)男性アスリートは、まず「スキンケアのやり方が全く分からない」という基礎的な部分での悩みが非常に多いです。中にはボディソープで顔を洗っていたり(笑)、化粧水の目的を知らなかったり。基本的な洗顔方法や保湿を伝えるだけで、肌が劇的に変わり、本人たちの意識も変わっていきます。男性も女性も、自分のコンディションを鏡でチェックすることは、アスリートとしてのセルフマネジメント能力を養うことに他なりません。
―ボディソープで顔を洗うのは流石に肌荒れが心配ですね(笑) 男女共にスキンケアをしている時代になっていますが、今後の展望として、この職業をどのように定着させていきたいですか。
福岡)スポーツビューティートレーナー®︎を、単なるトレンドではなく、管理栄養士やフィジカルトレーナーのように「チームに一人は必要な専門職」として定着させたいです。
また、これはアスリートのセカンドキャリアの選択肢にもなると考えています。怪我や引退でキャリアに悩む女性アスリートは多いですが、彼女たちの「戦ってきた経験」と「美容の技術」を掛け合わせれば、新しい形でスポーツ界に貢献できる。私自身がロールモデルとなり、後進の育成にも力を入れていくつもりです。

固定観念を脱ぎ捨てて、自分の「好き」で輝いてほしい
―最後に、若い世代の選手たちや、スポーツと美容の両立に悩む女性たちへメッセージをお願いします。
福岡)「スポーツを頑張るなら、美容は諦めなければならない」なんてことは、絶対にありません。両立は成立します。むしろ、自分を大切にケアし、綺麗になることは、スポーツを全力でやり抜くための大きな力になります。
周囲の目や、誰かが決めた固定観念にとらわれる必要はありません。自分の「好き」という純粋な気持ちを貫いてほしい。私自身、不登校を経験し、一度はプロの道を諦め、回り道をしてきましたが、今が一番自分らしく活動できています。
一人一人の可能性は無限大です。あなたが「自分の色」で輝くことが、結果として最高のパフォーマンスに繋がると信じています。私もスポーツビューティートレーナー®︎として、皆さんが自信を持って戦える「心のユニフォーム」をこれからも作り続けていきます。
編集後記:結果が出ない理由を「メイクをしているからだ」と糾弾する風潮には昔から違和感を覚えていましたが、福岡さんのような存在は日本のアスリートの選択肢や可能性を大きく広げるのではないでしょうか。一昔前は珍しかったメンタルトレーナーのように、今後は「スポーツビューティートレーナー®︎」がチームに一人いるのが当たり前な時代になるかもしれません。そうなれば、スポーツの見方や魅せ方もまた、新しく変わっていくはずです。(RDX Japan 編集部)
インタビュアー 上村隆介


