インタビュー | 2025.1.24 Fri.
『ブレイクダンスがオリンピック競技になるなんて想像もしていなかった』
そう語るのは、ブレイクダンサーとして活動する傍ら、ストリートワークアウトの大会にも出場する井門優太さん。
ダンスや体操の指導にも携わってきた井門さんは、ストリートワークアウトの魅力と可能性を感じ、この分野にも本格的に取り組んでいる。
「この先、ストリートワークアウトもダンスのように身近なものになると思っている」
今回は、井門さんのこれまでの歩みを振り返るとともに、ストリートワークアウトの未来について話を伺いました。
井門 優太 (いもん ゆうた)
生年月日:1994年05月17日
出身地:愛媛県今治市
経歴:16歳の時に地元・今治で独学でブレイクダンスを始め、その才能を開花させた現役ダンサー。県内外のバトルイベントに積極的に参加し、多数の入賞経験を誇る。現在は愛媛県内で、キッズスポーツ教室やブレイクダンス教室を運営し、次世代の育成に尽力している。
また、ストリートワークアウトにも注力し、第1回POWER&SKILL(アジア大会)では、見事3位の成績を収め、その実力を証明している。

岡村隆史さんとガレッジセールのゴリさんに憧れて、
ブレイクダンスの世界へ
ー今回は、RDXアンバサダーのAFROMANさんのご紹介で、Yutaさんにインタビューさせていただきます。現在はストリートワークアウトとブレイクダンスの両分野でご活躍されていますが、これらの活動を始めたきっかけや経緯についてお聞かせください。
Yuta)中学生の時にヒップホップダンスを始め、そこから高校1年生から現在までブレイクダンスを続けています。ブレイクダンスにはさまざまなスタイルがありますが、私は特に両足を浮かせる動きや、倒立、プランシェを取り入れたストロングスタイルに取り組んでいます。
フィットネスを始めたきっかけは、怪我の予防や体格をより良くして踊るために、ベンチプレスなどのウェイトトレーニングを取り入れたことです。その後、鉄棒に触れるようになり、鉄棒のアクロバットさにも興味を持ちました。元々、ブレイクダンスのトレーニングとして逆立ちや腕立て伏せを行っていたこともあり、ストリートワークアウトを知り、そこにどんどんのめり込んでいきました。
ー最初はヒップホップダンスをしていたということでしたが、ブレイクダンスに興味をもったきっかけはありましたか。
Yuta)私は愛媛県今治市という田舎で生まれ育ちましたが、昔は周囲にダンスをしている人がほとんどおらず、幼少期から人と違ったことをすることに魅力を感じる性格でした。高校生の時、「めちゃ×2イケてるッ!」で岡村隆史さんとガレッジセールのゴリさんを番組で見て、「かっこいいな、これやってみたい!」と思ったことがきっかけでブレイクダンスを始めました。
ーその当時は岡村隆史さんのダンスは大きな影響を与えていましたよね。元々、子供の頃から運動は好きだったんですか?
Yuta)小さい頃は、親や周囲の影響で空手を5年ほどしていましたが、特定の競技に取り組んでいたわけではなく、特別に一つの競技を頑張った記憶はあまりありません。それでも、外で遊ぶことは好きで、川を走り回ったり、木に登ったりするのが楽しかったです。
ーダンスに最も熱中していたんですね。ブレイクダンスを始めた当初から、コンテストにも積極的に参加されていたようですね。
Yuta)めちゃくちゃ下手な時から先輩に強引に連れられて大会に参加してましたね(笑) そこで「こんなにも上手い人がいるんだ!」と更に世界が広がり、ますますダンス熱が上がりました。今も大会に出続けており、先日、高知県のダンスコンテストで優勝するなど、日々ダンサーとして経験を積んでいます。
SNS時代にマッチしてるスポーツが
ストリートワークアウト
ー現在はダンスだけではなくストリートワークアウトにも挑戦されていますが、初めてストリートワークアウトを見た時の印象はいかがでしたか。
Yuta)鉄棒技や、離れ技にすごく感動して、自分も挑戦したいと思いました。ジャンルは違いますがブレイクダンスの経験をストリートワークアウトにもうまく活かすことが出来たので、すぐに成長を実感できました。
ー見ているとアクロバティックな技ばかりで凄いなと思うのですが、実際にやるとなると恐怖心もありますよね?恐怖心はどのように克服されていますか?
Yuta)慣れてきたとはいえ、今でも恐怖と隣り合わせで競技をしています。ただ、恐怖心でバク宙などのパフォーマンスを途中でやめてしまうと怪我につながるので、やり切ることは意識しています。やり切ってミスするのと、途中でやめてミスするのでは怪我のリスクが全然違うんですよ。自分自身が恐怖心を乗り越えて技を成功させた喜びがあったからこそ、自信を持てるようになったんです。その経験を、子どもたちにも付加価値を加えて伝えていきたいという思いで、教室や学校活動に取り組んでいます。

ーストリートワークアウトというスポーツには大きな伸びしろがあると思っていますが、今後どのような可能性があるとお考えですか?
Yuta)おっしゃる通り、さまざまな意味で非常に伸びしろのある競技だと思っています。鉄棒など、身近な公園の設備を使ってパフォーマンスを行うため、誰もがイメージしやすい競技です。例えば、鉄棒でぶら下がりながら空中を歩いたり、「人間鯉のぼり」といったバーで横に止まる技は、ストリートワークアウトの競技としては知られていなくても、見たことがあるという人が多いです。ただ、まだこの技がストリートワークアウトというスポーツの技だという認知はされていないんですね。SNSでの拡散もあり、技の認知が広がってきているので、これをストリートワークアウトに結びつけていくことがまずは大事だと思ってます。
ー見る側としては、スケートボードやサーフィンのように、盛り上がって観戦するスタイルが合うスポーツだと思っています。お酒を飲みながら観ると、より興奮するスポーツだとも感じますが、そのあたりはいかがでしょうか?
Yuta)見る人が面白さを感じたり、興味を持つことは、どのスポーツにも必要不可欠な要素だと思います。また、企業があまり参入していないジャンルであることにも可能性を感じています。例えば、レッドブルのような企業がスポンサーになって大会を開催できたら、非常に面白い展開になると思います。企業にとっても、ストリートワークアウトに最初に参画することには非常に大きなメリットがあるスポーツだと思っているので、引き続きアプローチしていきたいです。

場所を選ばず、誰でも挑戦可能なスポーツ
ープレイヤーとしてだけでなく、指導者としても子どもたちに教えていらっしゃいますが、子どもたちに指導するに当たって気を付けていることなどはありますか?
Yuta)小さなスキルアップや発見を見つけて褒め、そこを伸ばしていくことを意識しています。また、子どもたちには諦めない気持ちを大切にし、頑張って取り組んでほしいと常に伝えています。私自身がまだ大会に出たり、新たな技を覚えているチャレンジャーなので、指導者としての立場をしっかり確立し、礼儀面での指導を行いながらも、一緒に頑張る仲間のような感覚で接しています。
今の子どもたちは挑戦する前に諦めてしまう傾向が多いので、ダンスやストリートワークアウトを通じて、自分自身が技を続け、大会にも出ながら指導することで、諦めない気持ちや物事を継続する大切さを、次世代を担う子どもたちに伝えていきたいと思っています。
ーダンスをする人口が増えてきたことによって、ここ数年でダンスのあり方、見られ方が変わってきましたよね。
Yuta)ダンスの年齢層もかなり下がってきており、子どもの習い事の定番も昔はスイミングや体操が中心でしたが、今ではダンスもその中にしっかり食い込んできています。特に、ブレイキンに限らず、ヒップホップやジャズダンスなど、さまざまなジャンルが子どもの習い事の定番になっていると感じます。年齢層が下がる中で、かつては商店街などで練習することが一般的だったものの、今ではダンスを習う環境がかなりきれいで整備された施設で行われるようになっています。これが現在のダンスの主流と言える部分だと思います。そのため、街中や路上で夜遅くに練習するような人は、以前に比べて減ってきているのではないかと思います。


ーSNSの発達だったりK-POPの影響も子供たちにはありそうですよね。
Yuta)ジャンルの多様性というんですかね。気軽にダンスが出来るようになったのと見れるようになったのは大きいですよね。
ーYutaさんは小学校や中学校でダンスの指導をされている様子を拝見しましたが、どのような経緯で学校などで指導されているのでしょうか?
Yuta)実は学校での指導は、学校からの依頼だけでなく、自分からアポを取って活動の場を広げていった結果なんです。依頼が来る場合もありますが、必ずしもそれだけではなく、積極的に自分から働きかけてきました。こうした積み重ねが、ご縁を生んで、現在は愛媛県の隣町・西条市で「生涯学習推進講師」として子どもたちにダンスやスポーツを教えています。この活動は、教育委員会から認可を受け、校長先生から推薦していただいたことで実現したものです。
ー常に挑戦し続けているYutaさんですが、今後計画しているプロジェクトなどはありますか?
Yuta)自分の体が動く限り、引き続き大会に挑戦していきたいと考えています。ブレイクダンスは現在オリンピック競技にもなり、競技人口やメディアでの取り上げ方が右肩上がりになっていますが、ストリートワークアウトに関しては日本ではまだマイナーな競技です。アメリカやヨーロッパのように盛んになるための活動を、私自身も積極的に取り組んでいきたいと考えています。
ストリートワークアウトは非常に幅広く、家で懸垂をすることや公園の鉄棒で練習することも、すべてストリートワークアウトだと思っています。まずは自分が住んでいる愛媛や四国など、アプローチできる範囲から、ストリートワークアウトを知ってもらう活動をしていきたいと思っています。また、出場しているダンスイベントで、子どもたちの鉄棒パフォーマンスを取り入れることで、ダンスを通じてストリートワークアウトに触れていただける機会を提供したいと考えています。
ー最後に、今後の目標をお聞きしていいでしょうか。
Yuta)目標は大きく三つあります。
1つ目は、個人の目標として大会で昨年を超える良い結果を残すことです。以前、パワー&スキルというワークアウトのフリースタイル大会で、日本、中国、韓国、イタリア、香港、台湾など6カ国から参加者が集まり、事実上のアジア大会のような形で開催されました。その際、1位は中国の方、2位は香港の方、そして私は3位になり、日本人としてはトップの結果を出せてとても嬉しかったです。その結果を超えるために、さらに努力を重ねていきたいと考えています。
2つ目は、ストリートワークアウトの認知を広めることです。私がブレイクダンスを始めた頃、スポンサーがつくことも少なく、オリンピック競技になるなんて想像すらできませんでした。しかし、現在ではナイキやベンツなどの大企業がスポンサーに付き、競技人口も増加しています。ブレイクダンスの進展を見習い、ストリートワークアウトの認知度を拡大していきたいと考えています。
3つ目は、活動を通じて子供たちの自尊心を高めるきっかけを作ることです。私がダンスを始めた頃は、商店街や路上で夜遅くまで練習していたこともあり、ダンスに対してクリーンではないイメージを持っている人もいたかもしれません。しかし、今ではダンススタジオも増え、綺麗な環境で独学だけではなく習うことが主流となっています。何かの技を習得したり、大会やイベントに向けて日々努力を重ねる中で、子供たちが自分に自信を持ち、自己肯定感を高められるように支援していきたいと思っています。
ーインタビューありがとうございました!ストリートワークアウトとダンスの両方で、今後のご活躍を楽しみにしています。
井門 優太
RDX Japan編集部
インタビュアー 上村隆介