インタビュー | 2025.10.17 Fri
『ブラジルの2部でも、このような環境を備えたクラブは稀だ。』
ブラジルの強豪パルメイラスや、Jリーグのサンフレッチェ広島・ガンバ大阪などで活躍してきたストライカー、レアンドロ・ペレイラ選手。
その彼が日本の社会人リーグに参戦するというニュースは、多くのサッカーファンに衝撃を与えた。
しかし本人は、FC GRASION東葛のクラブハウスやトレーニング環境について「プロとして当然の水準を備えている」と語る。
今回は、加入の経緯やクラブへの第一印象、そして11月に控える関東社会人サッカー大会参入プレーオフに向けた意気込みを中心に話を伺った。

レアンドロ・ペレイラ
生年月日:1991年7月13日
出身地:ブラジルサンパウロ州
所属:FC GRASION東葛
経歴:ブラジルの強豪パルメイラスなどブラジル国内複数チームや、ベルギーリーグのクラブ・ブルッヘにてプレーした後、2019年に松本山雅FCへ加入。その後サンフレッチェ広島で2020年にJ1リーグ15得点を挙げ、得点ランキング3位の活躍を見せた。ガンバ大阪や栃木SCでもプレーし、2025年8月から千葉県社会人リーグ1部のFC GRASION東葛に新加入した。
社会人リーグの枠を超えた明確なビジョン
ー今回のインタビューを楽しみにしていました。レアンドロ・ペレイラ選手(以下、ペレイラ選手)が千葉県社会人リーグ1部に加入するというニュースはサッカーファンを驚かせました。まずはFC GRASION東葛(以下、グラシオン)へ加入した経緯を教えてください。
ペレイラ)最初の接点は、今通訳をしてくれているアントニーから連絡を受けクラブの関係者から正式な声かけを受けたことでした。日本ではJリーグで長くプレーし、日本の文化や生活にも慣れていましたし、また日本でサッカーがしたいという気持ちがずっと残っていました。実際にプロジェクトの説明を受けたとき、チームが描いている将来像が明確で、どういう道筋でカテゴリーを上げていくのか、施設整備の計画に筋が通っていると感じました。選手としての直感が「ここは進化が速いクラブだ」と告げていたので、決断は早かったですね。
ー加入を決めるうえで、特に大きな決め手となったものは何でしたか?
ペレイラ)大きく三つあります。一つ目は設備と環境です。映像や資料で見る限りでも十分に環境は整っていると感じましたが、現地で見たら想像以上でした。社会人リーグのカテゴリーにあるクラブで、ここまでのクラブハウスや練習場を備えているのは、ブラジルの2部でも珍しいです。
二つ目はクラブの意思。設備に投資するというのは、上を目指す明確なメッセージです。口だけではなく、目に見える形で「昇格」を取りにいく姿勢がある証拠だと思います。
三つ目は人。スタッフ、監督、選手が同じ方向を見ていて、監督から「君の力を必要としている」と言葉と態度で伝えてくれたこと。これが一番大きかったかもしれません。
ー初日にクラブハウスやトレーニング施設をご覧になったとき、率直にどんな印象を持たれましたか?
ペレイラ)「ここまでやるのか」という驚きでした。例えばロッカールーム、ウエイト環境、ピッチコンディション、ビデオ分析の仕組み、どれもが“プロの当たり前”を満たしています。ブラジルの3部・4部、あるいは2部のクラブでも、満たされていないところは普通にあります。
だからこそ、社会人リーグの枠に収まり切らないクラブだとすぐに分かりました。環境が選手の意識を押し上げます。ここでなら、若い選手たちの伸びしろを試合で結果に変えられると確信しました。

ーJリーグと社会人リーグを比べて、一番大きな違いはどこにあると感じますか? また、社会人リーグだからこその難しさはありますか?
ペレイラ)インテンシティ(強度)とプレースタイルの違いを強く感じます。Jチームは90分間のゲームコントロールが洗練されていて、どこでブロックを作り、どこで強度を上げ、どこでスローダウンするかが組織的に共有されている。
一方で社会人リーグは、良い意味で“素直”な強度が出やすい。全員が真っすぐにゴールへ向かい、局面での圧力が高くなる。強度の高さは脅威にも武器にもなるので、そこに判断の基準を与えられるかが僕の仕事のひとつです。
デビュー戦のゴールは信頼への最初の返礼
ー加入直後のデビュー戦で、ファーストタッチでゴールを決めたことが大きな話題になりました。あの得点はチームにとっても大きな意味があったと思いますが、どのように感じていますか?
ペレイラ)練習の段階から「君に決めてほしい」というメッセージを受け取り続けていました。ストライカーは言い訳できない立場です。だからこそ、最初のタッチで結果を出せたのは、信頼への最初の返礼になったゴールになりました。ゴールというのは、技術や戦術だけじゃなく、関係性の証明でもある。監督・スタッフ・チームメイトの期待と、僕の準備がひとつになった瞬間でした。

ーチーム内でのコミュニケーションは順調に取れているように感じます。言語や文化の違いもある中で、特に大切にしていることはありますか?
ペレイラ)日本での5年間の経験に加えて、通訳には信頼しているアントニーがいる。言語の壁がゼロというわけではないですが、サッカーには共通言語があります。トレーニングの約束事、セットプレーの狙い、前線のプレスのスイッチ、それらはピッチ上の振る舞いで共有できることです。ミーティングと練習で言葉と行動の両方を揃えることを意識しています。結果、選手同士の“視線が合う”場面が増えていると感じています。
ーグラシオンの中で、自身の役割をどのように考えていますか?
ペレイラ)第一にゴールを決めること。それが僕の存在理由です。第二に、練習・試合・日常のすべてで経験を伝えていくことです。例えば、カウンターで前線に人数が足りないときにどう時間を作るか、クロスが入る前のニア・ファーの駆け引きで相手のラインをずらす方法、あるいは押し込まれた時間帯に「出る・引く・行かない」をチームとして統一する合図の出し方。こういった細部を、ピッチで示しながら伝えていくことも役割だと思ってプレーしています。
ー実際に加入してプレーされてみて、グラシオンがさらに成長していくためのポイントはどこにあると考えていますか?
ペレイラ)判断の質がもっと求められると思います。運動量は素晴らしいし、球際で引かないメンタリティもある。そこに、「いまは行かない」「ラインを5メートル下げる」「あえてファウルで止める」といったチームとしての基準が乗れば、同じ強度でも消耗は減り、成果は増える。関東リーグプレーオフまでの1か月で、練習と試合を通じてそこを磨いていくつもりです。

ーグラシオンに加入して気になる選手やチームとして印象に残ったことがあれば教えてください。
ペレイラ)正直、一人の名前を挙げるのは難しいです。というのも、チーム全体としてのクオリティが高いからです。運動量豊富な選手が多く、90分間走り切れる力を持っている。テクニックのある選手も揃っていて、チーム全体で見たときに非常に良いバランスだと感じています。
僕自身は個人に注目するよりも、組織としてどう機能するかに目を向けています。誰か一人に頼るのではなく、全員が役割を果たすことでチームはもっと強くなる。そうした環境に自分が加われたことを嬉しく思っています。
ーグラシオンには若い選手が多いですが具体的にどのような事をご自身のご経験から伝えていきたいですか?
ペレイラ)先ほどの話しと被りますが一番大切なのは、試合の局面での判断基準です。出るべきか、引くべきかといった判断は、経験を積まないとなかなか身につきません。そうした場面での基準を、プレーや声かけを通じて伝えていきたいと思っています。
また、攻撃面ではストライカーとしての動き出しや駆け引き、守備では前線からのプレッシングのタイミングなど、自分がJリーグや海外で学んできたものを少しずつ共有したい。
若い選手たちは走力も技術も素晴らしいので、そこに僕の経験を重ねることでチーム全体がもっと強くなれると感じています。
キャリアの中で特別な時間を広島で過ごせた
ー少し他のお話しもお聞きしたいのですが、日本で5年間プレーした中で特に魅力的だったクラブはどこですか? また、“この選手はすごい”と感じた印象的な選手がいれば教えてください。
ペレイラ)日本で最も魅力的だと感じたのは在籍していたサンフレッチェ広島でした。J1得点ランキング3位に入った2020年シーズンを含めて、多くのゴールを決められたし、クラブや街の雰囲気も素晴らしかったです。キャリアの中でも特別な時間を広島で過ごせたのは幸せでした。
印象に残っている選手は、当時のチームメイトである青山敏弘選手です。彼はゲームビジョンがとても優れていて、常に試合を落ち着かせたり加速させたりできる。走らなくてもチームを動かす力を持っていて、本当に高いクオリティを感じました。彼と一緒にプレーできたことは自分にとって大きな財産です。
ー大活躍した2020年のシーズンは、コロナ禍の影響で難しい時期だったかと思います。難しい時期だったにも関わらず、結果が出せた理由は何だったのでしょうか?
ペレイラ)2020年は本当に特別な年でした。コロナ禍で長い間練習ができず、家にいるしかない日々が続きましたし、ブラジルに帰ることもできず家族に会えなかったのは正直つらかったです。
ただ、その状況が逆に『もう一度サッカーがしたい』という強い気持ちを生みました。練習が再開したときには、以前よりもずっとモチベーションが高くなり、毎日の練習や試合に強いエネルギーを持って臨むことができました。
あの難しい時期を経たからこそ、自分自身のサッカーへの愛情と情熱を再確認でき、それが結果につながった大きな理由だと思います。
ー同じストライカーとしてアマチュア時代に憧れていた選手がいたら教えてください。
ペレイラ)憧れていた選手は多くいます。その中で僕がもっとも憧れていたのは、ブラジル代表のFWのロナウド選手です。彼はスピード、テクニック、決定力、そして試合を決める勝負強さ、すべてを持ち合わせた、まさに“パーフェクトなストライカー”でした。彼のプレーから多くを学びましたし、今でも映像を見返すことがあります。
もちろん、自分はロナウドのようにすべてを完璧にこなすことはできません。でも僕には彼にはないヘディングの強さ、空中戦で勝つ力という武器がある。そこは自分らしいスタイルとして磨き続け、ピッチで証明したいと思っています。
ーグラシオンでのファーストゴールもヘディングシュートでしたもんね。
ペレイラ)そうですね、僕の良さが出たゴールだと思います。
一番大事なのはこのユニフォームを着続けること
ー社会人リーグへの挑戦はペレイラ選手にとって、この経験が将来のキャリアにどのようにつながると考えていますか?
ペレイラ)今は未来のことをあまり考えていなくて、まずは目の前にある11月のプレーオフに全力を注いでいます。ただ、社会人リーグで戦うことは決して後退ではなく、むしろ自分のキャリアに新しい意味を加えてくれるものだと思っています。
このクラブは本気で上を目指していて、環境も素晴らしい。そこでプレーすることは、僕にとっても経験を次の世代に伝える大切な機会ですし、ピッチの中で自分の価値を示し続けることができれば、また新しい未来へとつながっていくはずです。
何より、このユニフォームを長く着られるように結果で示していきたい。それが今の僕のキャリアにおいて一番大事なことだと思っています。
ー11月に行われる関東社会人サッカー大会参入プレーオフは、クラブにとって大きな山場になると思います。昇格をかけた重要な大会に向けて、現在どのような準備を進めていますか?
ペレイラ)もちろん僕一人ではなく、スタッフやチームメイト全員が11月に向けて非常に質の高いトレーニングを積んでいます。日々の練習や練習試合を通じて、チーム全体のコンパクトさと一体感を最大化することを意識しています。
僕自身もコンディションを上げ、試合の最初から全力でチームを助けられる準備をしています。プレーオフは初戦の入り方がすごく大事なので、最初の決定機を確実に決めることを目標にして臨みたい。
全員が一つの方向を見て、同じ準備をしていると感じますし、良い形で大会を迎えられると確信しています。

ー個人としてはこのような大会をどのように戦い、望むべきだと考えていますか?
ペレイラ)まず一つ目は、試合の立ち上がりや最初の決定機です。ストライカーにとって最初のチャンスを確実にものにすることは、チーム全体の流れを大きく左右します。そこで結果を出すことで、仲間も勢いに乗れるし、相手にもプレッシャーを与えられる。
もう一つは、セットプレーの場面です。僕の武器は空中戦のファーストボール、つまり最初の競り合いに勝つこと。ニアでもファーでも、自分がボールに触れることでゴールに直結させられる。どの国でプレーしても通用してきた強みなので、ここでも必ず生かしていきたいと思っています。
ーペレイラ選手が加わったグラシオンの今後の成長がとても楽しみです。最後に、11月の関東社会人サッカー大会参入プレーオフへ向けた意気込みをお願いします。
ペレイラ)11月のプレーオフは、クラブにとっても僕自身にとっても非常に大きな挑戦です。初戦を11月15日に控えていますが、その入り方が結果を大きく左右すると思っています。スタッフ、選手全員が同じ方向を見て準備できているので、自信を持って臨めると感じています。
僕個人としては、やはりストライカーとして最初の決定機を必ず決めることを意識しています。結果でチームに貢献し、サポーターに喜んでもらえるよう、全力で戦いたいと思います。
ーありがとうございました。11月の関東社会人サッカー大会参入プレーオフでのご活躍を期待しております!
編集後記:今回のインタビューは、加入発表直後にGMの二瓶さんへ連絡を入れたことで実現しました。ペレイラ選手の言葉通り、グラシオンの昇格への本気度は外から見ても伝わってきます。プレーオフでは「全員サッカー」を体現し、日本のサッカーファンを再び驚かせてくれることを期待しています。(RDX Japan編集部)
インタビュアー 上村隆介


