GLORY BEYOND DREAMS 大内 美里沙 インタビュー

インタビュー | 2025.5.23 Fri

『空手を極めた先に見据えた夢、それは俳優でした。

数々の国内外大会で優勝を重ね、2024年12月の全日本選手権をもって競技生活に幕を下ろした大内 美里沙さん。

空手に打ち込んだ日々の裏には、「何かを極めた先で俳優になる」という明確な目標があった。

現在は舞台やアクションにも挑戦し、新たな道を歩み始めている。
空手と表現をつなぐ共通点、そしてこれからの展望について話を聞いた。

大内 美里沙 (おおうち みりさ)

生年月日:2002年1月11日
出身地:大阪府 池田市

経歴:4歳から空手を始め、幼少期より頭角を現す。2017年にはカデット世界選手権で優勝を果たし、以降もアジアジュニア大会や全国高等学校選手権、KARATE1 series Aなどで数々のタイトルを獲得。高校・大学時代を通して国内外の大会で圧倒的な成績を収め、全日本学生大会では2連覇を達成。2022年にはU-21世界選手権で世界一に輝いた。

2024年12月、日本武道館で開催された全日本選手権大会をもって現役を引退。現在は俳優として新たなステージに挑戦している。

夢は俳優、
空手に賭けた日々の先に

ー2024年12月の全日本選手権大会をもって空手家として引退されたとのこと、本当にお疲れさまでした。引退後は俳優として活動されていると伺っていますが、現在のご活動について教えていただけますか?

大内)直近で出演したのは、2024年の11月に行われた舞台『輝夜姫』です。この舞台は、『もしも徳川家康が総理大臣になったら』という書籍の原作者、「眞邊明人」さんが演出、脚本を手がけたものです。私はその舞台で、『輝夜』という主役を務めさせていただきました。本格的なお芝居の舞台では初主演ということでものすごく緊張したんですけど、そのぶん本当に良い経験になりました。

もともと私の母は舞台やダンスの活動をしていて、小さい頃から母の舞台によく出ていたんです。そういう環境で育ったからこそ、『人前で表現する』ことが自分の中では自然なことなんだと思います。俳優の仕事を始めてまだ間もないですが、空手で培った集中力や表現力が舞台でも生きているのを実感しています。

ー空手選手としての活躍から一転、俳優の道に進まれたきっかけはお母様の影響もあったのでしょうか?

大内)空手を始めたのは4歳ですが、5歳のときに母の主催する舞台で初舞台をふみました。中学生のころまでは空手と舞台を並行して続けていました。私の昔からの最終的な夢は俳優になることだったのですが、中学3年生のときに空手の道に進むか俳優の道に進むか悩んだ時期があり、『空手で日本一を取ってから俳優になろう』と決め、高校からは空手一本に絞り、空手に打ち込んできました。

というのも、何か一つでも極めたものがあった方が、芸能の世界に進んだときに強みになるんじゃないかと思ったからです。それに、私の祖父が空手の先生で、ずっと応援してくれていたので、ちゃんと成果を出してから次の夢に進みたいという気持ちもありました。それからは空手に集中して、日本一、そして世界一を目指す日々を送りました。

空手を経て、表現者として新たな一歩を踏み出した

遊ぶより、夢中だった
習い事だらけの少女時代

ー4歳の頃から空手を始められたと伺いましたが、空手との出会いや、当時の練習の思い出について教えていただけますか?

大内)空手との出会いは本当に自然なものでした。というのも、私の祖父が道場を開いていて、家族ぐるみで空手に関わっていたからです。だから、気づいたら道場で遊んでいたという感覚でした。始めたたての頃の記憶は、道場の片隅で走り回っていただけしかないんですが(笑) 最初は遊び感覚で動いていたんですが、初めての試合で負けた時、『悔しい!』という気持ちが一気に芽生えて、そこからは本格的に練習に打ち込むようになりました。

試合に出てからは変わりました。悔しさが原動力になって、次の大会では優勝することができました。それが成功体験となって、空手が楽しいと思えるようになったんです。それからはもう、空手が生活の一部のようになっていて、気づけば日々の中心が空手になっていました。

ー好奇心旺盛な性格で小学生時代は習い事を多くしていたそうですね。空手以外は何をされていたんですか?

大内)はい、小学生のときは本当に多くの習い事をしていました。ピアノ、書道、英語、体操、バレエ、ダンス、スイミング、学習塾…。たぶん11個くらいはやっていたと思います(笑) とにかく私は好奇心旺盛な子で、何かを見たら『やってみたい』とすぐ言うタイプでした。習い事を一日2個掛け持ちしてる日もあったので帰ってきたら夜の10時、11時ですぐ寝て朝起きて学校行くみたいな毎日でしたね(笑) 母も応援してくれて、いろんな経験をさせてもらっていたので、毎日スケジュールがパンパンでしたね。

ー年頃の頃は、習い事に飽きてしまったり、遊びたいなと思うことはなかったんですか?

大内)それがどれもやめたいとは思わなかったんです。友達が話すアニメとかゲームの話にも全然ついていけなかったです(笑) それこそマリオカートとか有名なゲームもほとんどやったことがなかったです。でも、そのぶん“自分の技術が上がる”ことに楽しさを感じていました。空手はその中でも特に長く、自然と日常に溶け込んでいたので、気づけば『これだけは続けていたい』と思うようになっていました。

ー高校では山梨の名門校に進学されたと聞きました。環境の変化はいかがでしたか?

大内)大阪を離れて、山梨の日本航空高校という空手の強豪校に進学しました。そこでは寮生活が始まって、家族とも離れて暮らすのが初めてだったのですが、毎日空手漬けで、朝から晩まで稽古の繰り返し。慣れない環境で大変なことも多かったですが、それがかえって自分を強くしてくれたように思います。

ー高校時代を振り返って、特に印象に残っている出来事や、影響を受けた恩師の言葉などがあれば教えてください。

大内)高校1年生の時に初めて日本一を取れたことは、大きな自信になりました。でもそれ以上に、仲間や監督との関係性が、私の成長を支えてくれました。監督は厳しかったけど、その言葉ひとつひとつが私の価値観を大きく変えてくれました。『徳を詰め』『人生はドラマだと思え』っていう監督の口癖は、今でも私の行動の指針になっています。落ち込んだ時には、『これはドラマの“谷”の場面だ』と思って、次にどう上がるかを考えるようにしています。

学生時代から国内外の大会で活躍を続けてきた

ー空手人生の中で特に心に残っている大会、もしくは試合はありますか?

大内)一番忘れられないのはジュニアの世界大会で優勝したときのことです。決勝の演武が終わって、まだ審判の判定も出ていない段階だったんですが、観客席からふわっと拍手が湧いたんです。それがどんどん大きくなって、最終的にはスタンディングオベーションみたいな形になっていて。その瞬間、『私の演武が人に伝わったんだ』と、強く実感しました。判定よりも先に“伝わった”という感覚が嬉しくて、あのときの光景はいまでも目に焼き付いています。

ーみんなが認めてくれた瞬間だったんですね。これまでの競技人生で、特に印象的だった挫折やプレッシャーはどんなものでしたか?

大内)あります。特に、高校時代に初めて日本一になった後のインターハイですね。そこでは『連覇がかかっている』というプレッシャーがすごくて、試合の1か月前から毎日泣いていました。『勝たなきゃいけない』という意識が、どんどん自分を追い込んでいって。勝って当然と思われている状況は、正直とても怖かったです。

でも、そういうプレッシャーと向き合ったことで、『他人の期待ではなく、自分のベストを出すことに集中しよう』と思えるようになりました。それ以降は、周囲の評価よりも『昨日の自分よりも強くなる』ことを目標にして、自分の成長にフォーカスできるようになったんです。あの経験は、今の俳優業でもすごく活きています。

1mmの違いを見抜く力が、
今の表現に生きている

ー改めて空手の『形』の面白さってどんなところでしょうか?

大内)形って、その人の生き方や価値観までも映し出されると思っています。だからこそ、自分に嘘をついていたり、どこかにごまかしがあると、それが動きに表れるんです。逆に、心が澄んでいて、集中できているときは、動きが自然に美しくなる。そういう意味では、形は“鏡”のような存在ですね。

私は演武のとき、目線や重心、呼吸のタイミングまで意識しています。1mm単位の動きが印象を大きく変える世界なので、感覚を研ぎ澄ませて挑んでいました。

ー本当に、数センチ単位でご自身の動きを研究されていたんですね。空手で培ったものは、俳優としての活動にどんなふうに活きていますか?

大内)すごくたくさんのことが活きています。まず『形』って、自分を魅せるものなんですよね。人前でどう見えるか、どう伝わるかをすごく意識して動くので、空手で培った“魅せ方の感覚”は、舞台や映像での演技にも直結しています。たとえば目線ひとつ、腕の角度ひとつで、相手に伝わる印象って全然違うじゃないですか。そういう微細な部分を大事にする姿勢は、空手の稽古で自然と身についたと思います。

あとは集中力や感覚の精度ですね。私は感覚派なんですが、空手では鏡の前で動きの違和感を見つけて修正していく作業を延々とやっていました。それって演技でも同じで、『この動き、ちょっと違うな』って思ったら、すぐに修正するクセがついています。そういう細かい積み重ねが、表現の精度につながっていると思います。

ー演技と空手の『表現』はどんなところが共通していると感じますか?

大内)両方に共通しているのは『感情を見せる』ということだと思います。空手の形では、ただ技を正確にこなせばいいというわけではなくて、見る人にどれだけ自分の気迫や心構えを届けられるかが大事です。演技もまったく同じで、台詞を正しく言うだけでは感動って生まれないですよね。どれだけ心の中から湧き出るものを込められるか。それを表現する技術や感性は、空手を通して育まれたと思っています。

特に私の場合は、演武という一人で表現する形をやってきたことが大きく影響していると思います。舞台でも『どう見られるか』をすごく意識してしまうし、それは悪い意味ではなくて、常に客観的に自分をチェックするクセがついているということ。鏡を見ながら自分を整えてきた時間が、そのまま俳優の稽古にも通じていると感じます。

覚悟を胸に、
俳優としての道を突き進む

ーそうした表現力を活かして、今後俳優として挑戦してみたい役柄やジャンルがあれば教えてください。

大内)強い女性の役にはずっと惹かれています!たとえば『ドクターX』とか『大奥』、『黒革の手帖』みたいな、信念があってブレない女性像。そういう人物を演じられるようになりたいです。芯の強さを感じるようなキャラクターに自然と惹かれるんですよね。

あとはアクションにも挑戦したいです。空手で培った体の動かし方があるので、それを武器にできたらいいなと思っていて。今はアクロバットのレッスンも受けていて、将来的にはカメラの前で、アクションと演技の両方ができる女優になりたいです。ミュージカルにも興味があって、歌やダンスの表現ももっと広げていけたらと思っています。

ー空手との今後の関わり方について、どのように考えていますか?

大内)私は空手の魅力を伝える存在でいたいと思っています。特に『形』の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいです。形って、一見すると分かりづらい部分もあると思うんです。たとえば『どっちが勝ったの?』とか、『何が評価されてるの?』って思われがちですよね。でも、実際にはとても奥深くて、技術だけじゃなくて選手の人間性や精神性がすごく出る競技なんです。

海外では形の人気が高くて、ヨーロッパを中心にたくさんのファンがいるんですよ。ジャパニーズカルチャーとして評価されている一方で、日本国内ではまだまだ形に対する認識が広がっていないと感じています。だからこそ、私自身がメディアやイベントを通じて発信し続けて、空手の文化的な価値や美しさ、楽しさを伝える役割を果たしたいです。

空手仕込みの動きで、舞台でも存在感を放つ

ー俳優として、これだけは誰にも負けないという強みはありますか?

大内)うーん、演技力とかまだまだ勉強中なんですけど、やっぱり“体が動く”というのは強みになると思っています。ずっと空手をやってきたので、瞬発力や反射神経、筋力など、体の使い方には自信があります。今はアクションやアクロバットのレッスンも受けていて、将来的には本格的なアクション女優としても通用するようになりたいと思っています。

あと、『運が良い』と自分では思っていて(笑) でも本当に、タイミングよくいろんな出会いやチャンスに恵まれてきたと思うんです。その運も自分の武器だと思って、チャンスが来たときにしっかり掴めるように、日々準備しておきたいと思っています。

ー最後にお聞きしますが、大内さんにとってプロフェッショナルとは何ですか?

大内)私は『覚悟を持って、自分と向き合い続ける人』だと思います。どんな仕事でも、楽しいことばかりじゃなくて、辛いことや迷うこともあると思うんです。そんなときに、投げ出したり逃げたりするんじゃなくて、自分で決めたことに対して責任を持ってやり切れる人がプロだと思います。

空手もそうでしたし、今の俳優の仕事でもそうです。どんなに不安でも、自信がなくても、やると決めたら前に進む。それを積み重ねていくことが、プロとしての道なんじゃないかなって。だから私はこれからも、自分の信じた道を真っ直ぐに進み続けたいです。

ーこれから俳優として、さまざまな場面でお目にかかれるのを楽しみにしています!

本日はありがとうございました。

編集後記:初めて「形」の映像を拝見したとき、大内さんの眼差しの鋭さと圧倒的な気迫に、強さを体現する女性という印象を抱きました。ところが実際にお会いすると、とても穏やかで、やさしい笑顔の方。強さとしなやかさを併せ持つ、そのギャップにすっかり魅了されました。空手家として華々しいキャリアを終え、今は俳優という新たな道へ。そこにも、彼女らしい全力の覚悟とまっすぐな眼差しがありました。大内さんが表現者としてどのように成長していくのか、今からとても楽しみです。そして願わくば、その背中が“競技のその先”を模索する多くのアスリートにとって希望の光になり、空手という舞台にまた別の形で恩返しをしてくれることを心から期待しています。(RDX Japan編集部)

インタビュアー  上村隆介

大内 美里沙

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