GLORY BEYOND DREAMS 鈴木 佑輔選手 インタビュー

インタビュー | 2024.6.27 Thu

何があっても好きだからやれるんです

彼はベンチプレス世界選手権2連覇の実績を持つ日本ベンチプレス界の生きるレジェンド、鈴木 佑輔 選手。

世界大会では日本代表の団長として、日本ベンチプレス界を引っ張る存在の選手だ。

『40にはなりましたが、まだまだ自己記録は更新出来る』

トレーナーとしても活躍する鈴木選手に、2024年5月に開催された世界ベンチプレス選手権、そして過去から今までを振り返って頂きました。

鈴木 佑輔 (すずき ゆうすけ)

BODY ART DESIGN 代表
生年月日:1984年9月5日
身長:169cm
出身地:東京都北区赤羽
経歴:
2018年、2019年世界クラシックベンチプレス選手権 2連覇
日本選手権 優勝7回
最優秀選手賞1回
アジア選手権 優勝6回 
最優秀選手賞4回
その他、多数

35歳の時の自分に勝てなかったのが悔しかった

ーまずは2024年世界ベンチプレス選手権、お疲れさまでした。結果としては83kg級でマスターズ1というカテゴリーでの優勝となりました。改めて今大会の感想を聞かせてください。

鈴木)優勝したことに関しては良かったと思ってます。ただ、自分としては思い描いていた結果ではないので悔しいの一言です。自己ベストは2018年の222.5kgですが、35歳の時の自分に勝てなかったのが1番悔しいです。応援してくれている周囲の方のためにも、優勝と、年代別のカテゴリーで最優秀選手をいただけたことは良かったですが、試合に勝って勝負に負けたと思っています。

ー今回出場された大会は、ベンチプレス業界でどのような権威性を持つ大会になりますか。

鈴木)IPFという世界パワーリフティング連盟が主催している大会なので、アンチドーピングが徹底されていて、オリンピックコミュニティの傘下にもある、ベンチプレスというカテゴリーの中では1番権威が高い大会です。ただ、日本ではベンチプレスを競技としての認知度は低く、ボディビルと間違われる事も多いので、フィットネス業界の中での牽引性としてはあまり大きくはないのかなと思います。

ーベンチプレスの強豪国と言われているのはどの国になるのでしょうか。

鈴木)ベンチプレスが強いのは日本で、次にアメリカ、スウェーデン、カザフスタン等です。パワーリフティングには3種類あり、スクワッド、ベンチプレス、デッドリフトのトータルで競う競技では日本はまだ発展途上国で伸び始めてる段階です。今はアメリカやスウェーデン、カザフスタンが強いですね。しかし、ベンチプレスだけ別格で日本が強いです。ベンチプレスは立って行う競技ではないため、体の使い方が特殊です。日本人的な、いわゆる型を、ひたすら練習していることが1番大きな要因かと思います。

ー世界大会ということでオーディエンスも含め、盛り上がっている様子が映像でも分かりましたが、会場の雰囲気はいかがでしたか。

鈴木)会場は毎年各国が持ち回りなのですが、今年のアメリカは盛り上がりも、選手に対してのリスペクトもあり最高でした。日本でもパワーリフティングがフィットネス界隈で流行り始めていることもあり、他国の選手と沢山交流できたのも良かったです。

ー日本代表の団長としてもチームを引っ張る役目があったと思います。チームの雰囲気作りなど工夫された、気を使われた事はありますか。

鈴木)他国で試合をするにあたって不安要素を少なくするために、LINEグループで情報共有を積極的に行いました。具体的には、ホテルから会場の距離、練習場の環境や地域の治安などです。コミュニケーションを取って、メンタル面、フィジカル面共に少しでも不安なく、1番良いパフォーマンスが出せるように良い雰囲気を作りました。皆ベンチプレスが大好きなので、良い試合ができたら皆で泣いて喜ぶし、悔しかったら皆で悔し涙を流し、そんな一致団結したような形のコミュニティを作りました。また、日本の協会だと分からないところを世界連盟やアジア連盟の方に聞いたり、パイプ作りも意識しました。

ーYouTubeでベンチプレスをされている方のメンタルについてお話をされている動画がありますが、どのような経緯があってご投稿されているのかお伺いできますか。

鈴木)ベンチプレスは競技なので、パフォーマンスを高める必要があります。本番のための練習という捉え方ですね。トレーニングとは異なります。競技として全身を使うためには体の状態が良くなくてはいけない。体の状態を良くするには、精神状態も良くなくてはいけない。ベンチプレスをする事によって生活が豊かになるとか、体が楽になるとか、相互関係が大切だという横のラインを作っていく事が、僕の使命かなと思い、SNSで発信もしています。

自身のYouTubeチャンネルではメンタルについて多く言及している

ーそのような考え方になったのはいつ頃からでしょうか。

鈴木)現役として24年、トレーナー歴は20年、ジム経営者としては12年活動しておりますが、紆余曲折ありました。大胸筋や腕を鍛えればベンチプレスは強くなるけど、頭打ちになったり怪我をしてしまってパフォーマンスが下がり、悔しい思いをした事も沢山あります。その中で私が昔やっていた中国拳法の体の使い方とベンチプレスの体の使い方が一緒だと気づきました。30代の頃に、体の使い方が上手になると、バーベルを握った時の感覚も変わってくることに気づいてからは、ジムで様々な人に教え始めました。最初は言っていることが伝わらないジレンマがあったのですが、紐解いていくと、ベンチプレスだけではなくて、普段の歩き方や、生活、職業も関わってくるんだなと気づいた事がきっかけです。

大学時代からベンチプレスに夢中でした

ー過去のお話も伺いたいのですが、どのような幼少期を過ごされましたか。

鈴木)東京都北区赤羽に生まれ、幼稚園では千葉県松戸市、小学生からは茨城守谷市と、父親の仕事に合わせて引越していました。3歳の頃に兄の影響で中国拳法を始め、中学2年生の頃まで続けました。運動神経は良い方で、学校の運動会で全種目の代表になる感じでした。スポーツではないですが中学3年生の時には生徒会にも入りました。

ー部活動は何かされていましたか。

鈴木)野球強豪校で中高一貫の常総学院に入学し、まずは応援指導部に入っていました。その後、先輩に誘われて、パワーリフティングを始めました。高校では世界高校選手権に出場するほど、3年間部活漬けだったので甘酸っぱい青春はありませんでした(笑)

―大学入学以降もパワーリフティングを続けられたのでしょうか。

鈴木)18歳で長野の大学に進学し、キャンパスライフを楽しもうと思い、9月くらいまで、トレーニングを一切しませんでした。そうしたらみるみる体が小さくなっていき、フィットネスクラブでバイトを始め、ベンチプレスをしていました。当時、長野県にパワーリフティング協会がなく大学4年間は試合には出られなかったのですが、ベンチプレスが好きで、トレーニングをしていた感じです。

ー海外に留学もされていたとのことですが、どちらに留学されたのでしょうか。

鈴木)大学を1年間休学して、アメリカのアイダホ州に語学留学に行きました。アイダホ州を選んだ理由としては、日本人がいないこと、現地の人が綺麗な英語を喋る地域だということ、そして大学時代のアルバイト先のフィットスクラブで、出会ったトレーナーの方に強く勧められたことがきっかけです。今でこそ海外で試合をすることも多くなりましたが、留学の経験もあり、海外に対して抵抗感は全くないです。

ー留学、大学卒業後はすぐ就職されたのでしょうか。

鈴木)帰国後、大学を卒業してからもフィットスクラブでアルバイトを続けていました。そこで出会った人と一緒に他のジムを立ち上げて今に至ります。

思い通りに行かなくなってからが勝負

ー今まで様々な大会に出られた経験があると思いますが、特に印象に残っている大会はありますか。

鈴木)1番は2013年のアジア選手権です。日本オープンの部になって初めての国際大会でしたが、日本国内の大会と異なり適当なので、楽しかったのですが、トラブル続きでした。1週間程度のまとまった時間をベンチプレス好きな人達と、バックグラウンドが違う人達と出会って過ごす時間の大切さを知ったのが2013年のアジア大会です。そこでの繋がりは今でもありますし、大人の修学旅行のような印象を持っています。

ー大会でのトラブルというと、どのようなことがあるのでしょうか。

鈴木)天候不順の事なので文句は言えませんが、今年が1番大変でした。飛行機が飛ばず、バスで来るかUberで来るか等、選択をしなくてはいけないことが沢山あり、平均睡眠時間が1日5時間以下でした。その状況下でベストコンディションを出すのはつらいですが、そこも含めての大会なので、全くネガティブには捉えていないです。

ートラブル続きの大会期間中でしたが、試合に向けてのルーティンはありましたか。

鈴木)基本的に日本でも朝お風呂に入るようにしていて、アメリカではプールがあったので、朝の6時にプールに入っていました。食事もビュッフェを食べて、外で散歩するというルーティンを守れたので良かったです。

ー大会を色々と経験する前と今で、変わったことはありますか。

鈴木)メンタル面で言うと、悪いことにも何も動じなくなり、こんな事もあるよなとポジティブに捉えられるようになりました。例えば怪我をしたおかげで、工夫するようになって結果的に伸びる、というきっかけが嫌な事でも、どう捉えてどう変えていくか自分自身という考え方ができるようになりました。

ーメンタルのコントロールは本当に難しいと思いますが、コントロールするためにどのような考え方、意識を持っていますか。

鈴木)自分の思った通りにいかなくなった時からが勝負だと思っています。ベンチプレスが好きだったら、どんなに苦しくても、ベンチプレスができるだけで幸せではないのかという発想に至りました。最近はトレーナーとしてのセッションが多く、自分の練習時間は1日15分程度です。その中で、疲れたと思いながらするのと、ベンチプレスができて幸せだなと思いながらするのでは、体の反応も違います。心持ちが違えば、バーベルが上がる速度や、体の使い方も変わってきます。世界大会に出られるのも本当に一握りなので、準備が上手くいかなくて不安ではなく、出られるだけで幸せじゃないかと思うようにしています。

ベンチプレスが出来る幸せを噛みしめながら日々トレーニングを行っている

ースポーツに怪我は付き物だと思いますが、怪我予防やリカバリーの対策はどのようなことをされていますか。

鈴木)例えばピラティスや格闘技、ヨガ、バレエ等、他の競技から動作を真似る事が大事だと思っています。ベンチプレスで怪我をする時には、何かしらのエラーが動きの中にあるはずです。そのエラーを埋めるのは、ベンチプレスの知識の中だけではないかもしれない。僕が影響を受けて感謝しているのは、競歩の元日本代表の選手です。体全体の動作を1度見直すのは怪我の防止になるし、実際に怪我した時に学べる事だと思います。また、今は様々なツールがあるので、ツールを使って体のコンディションを整えたりもします。

ートレーナーとしても活動されている中で、指導するにあたって気をつけている事を教えてください。

鈴木)その人、その人にライフスタイルがあるという事です。例えばデスクワークの人と、外仕事の人と違うので、バックグラウンドを知った上で、提供していくものを変えていきます。体の使い方をその人に合わせて、言葉を変えたり、表現を変えて指導することを意識しています。ベンチプレスは、極端な話バーベルを持って寝転がった時点で、99%ぐらいは完成していると思っていて、残り1%の導き方は人によって違うのかなと思っています。

ー現在は東京、長野と2拠点のジムの運営をされておりますが、ジムをオープンされた理由をお伺いできますでしょうか。

鈴木)29歳の時に自分が練習したいからジムをオープンしました。世界大会に一緒に行くような仲間は自分の練習時間を確保するためにジムのオーナーを務めていることが多いです。ジムのオープン後、指導に重きを置き世界大会出場者を何人も輩出しましたが、自分がトレーナーだと強く感じているのはここ2年ぐらいです。

好きを突き詰めていきたい

ー今後どのようにベンチプレス業界を盛り上げていきたいですか。

鈴木)スポーツとしてのベンチプレスを広めていきたいです。正しいベンチプレスをすると体が痛くなるのではなくて楽になるとか、ベンチプレスで自分のなりたいような体になれるとか、パフォーマンスが高くなるとか、スポーツには心身ともに健全な状態にする働きがあることを知って欲しいです。そのために、YouTubeでも短絡的なものではなく、ロングタームで考えてベンチプレスをして、幸せになれることを皆にも知ってもらえるような配信をしております。

ー鈴木選手のYouTubeのコメント欄を拝見すると、ベンチプレスに対して真剣な視聴者が多いように感じます。

鈴木)何万人に向けて発信するのではなく、ある程度限られているところに、きちんと届けたいと思っています。YouTubeは一方方向の媒体のため、発信した内容をどう捉えるかはその人次第になってしまいます。なので無責任にならず、視聴者を大切にしていきたいです。

ー次の試合は9月のキルギスタンであるアジア選手権ですね。目標をお聞かせください。

鈴木)まず自己記録をとにかく取りたいです。あとはキルギスタンという国自体が楽しみです。情勢的に少し不安定な国のように思われるかもしれませんが、実際行ってみると、人も優しいし、とても楽しい時間を過ごせるのかなと思います。また、大会の開催において、発展途上国は国主導でしていくところも多いので、盛り上げたいというのもあると思います。

ー最後にお聞きしますが、鈴木選手にとってプロとは何でしょうか。

鈴木)好きを突き詰める事だと思います。何があっても好きだからする。そうすることがプロなんだと思います。

ー丁寧に分かりやすくお答え頂きありがとうございました!

編集後記:人を見てトレーニングの方法や指導を変えているという言葉があったように、インタビューでも私を見て臨機応変に対応してくれてるのが分かりました。思ったことを人に合わせてアウトプットする能力に感心すると共に、鈴木選手の言葉に救われるYouTube視聴者がいるのも納得ができました。選手として、自己新記録を出し最高な大会だったと投稿される日を楽しみにしております!(RDX Japan編集部)
インタビュアー  上村隆介

鈴木 佑輔

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