インタビュー | 2026.7.29 Wed.
『ストロングガールズフェスティバル』
女性パワーリフターたちが集い、互いの限界と努力を称え合う熱気あふれるこの舞台で、第6回大会のMVPに輝いたのが阿部 由依(あべ ゆい)選手だ。
パワーリフティングを始めてわずか1年。
コンプレックスだった「太い脚」を自らの最強の武器へと変え、自己肯定感を手に入れた彼女は、いま大きな輝きを放っている。
「パワーリフティングは、自分の人生を変えてくれた存在です」
満面の笑みでそう語る阿部選手に、MVP受賞の舞台裏、競技に惹かれた理由、日本一という高みを目指す現在の想いについて、じっくりとお話を伺った。
阿部 由依(あべ ゆい)
生年月日:1997年8月21日
出身地:岡山県
経歴:パワーリフティング選手。バスケやムエタイを経て2025年より競技開始。「第6回 Strongirls Strength Festival」で全種目自己ベストを更新しMVPを獲得。コンプレックスだった体型を強みに変え、スクワット日本記録更新と「日本一」を目指して日々トレーニングに励む。

「全員がMVP」だと思えた特別な舞台
—第6回Strongirls Strength FestivalでのMVP受賞、おめでとうございます!まずは選ばれた瞬間のお気持ちから教えていただけますか?
阿部)本当にありがとうございます!でも、発表された瞬間は「私でよかったのかな……?」という気持ちが一番大きかったんです。私はただ、大会を思いきり楽しませてもらっただけだったので。こんな素晴らしい賞をいただいていいのかなって、率直に驚きました。
—ご自身の中で「もしかしたら取れるかも」という予感はなかったのでしょうか?
阿部)全くなかったです!主催者の河西香南さんやMCのAYUTOさんをはじめ、運営の皆さんが「誰が一番強いか」という結果だけでなく、大会全体をいかに盛り上げるかをすごく大切にされていて。会場にいた選手全員がキラキラしていて、「誰もがMVPなんじゃないか」と思えるような温かい一体感があったんです。そんな特別な空気感の中で自分を選んでいただけたことが、心から嬉しかったです。
—公式戦とはまた違った雰囲気が印象的だったのですね。
阿部)私のコーチを務めてくださっているケニーさんも運営に関わっていらっしゃるのですが、出場前に「お祭りみたいな大会だよ」と教えてもらっていました。でも実際に参加してみたら、お祭り以上の一体感があって!公式戦のピンと張りつめた空気も緊張感があって素晴らしいですが、ストロングガールズには参加者全員で作り上げる独特の温かさがありました。初めての参加でしたが、本当に良い大会だなと肌で感じましたね。

友情とコーチの後押しで掴んだ「自己ベスト更新」
—そもそも、この大会に出場しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
阿部)実は競技を始める前から、SNSで「ストロングガールズ」の存在を知っていたんです。友人の「しゅうちゃん」という子が過去の大会に出場していて、その動画を見た時に「なんてかっこいい大会なんだろう!」って憧れていて。
パワーリフティングを始めてから「絶対にいつか出たい」と思っていたのですが、今年6月に地元の広島で国体予選(国スポ予選)があって、ストロングガールズが7月だったので、日程が近すぎたんですよね。コーチに止められるかな……と不安だったのですが、相談してみたら「出なよ!お友達作りなよ!」って背中を押してくれて(笑) それで念願叶って出場することができました。
—実際に参加してみて、特に印象に残っているシーンはありますか?
阿部)幅広い年齢層の選手たちが、本当に楽しそうに笑っていたり、時には緊張で涙を流していたりする姿ですね。控え室でそういう姿を見た時に、「みんながこのパワーリフティングという競技に、ここまで本気で向き合っているからこそ湧き出る感情なんだ」と胸が熱くなりました。
そして何より、選手たちが本気で挑み、輝ける場を作り上げてくださった主催の河西香南さん、野村優さん、友松春奈さん、そしてスタッフの皆さんの力があってこそだなと。一人で会場の熱気にじーんと感動していました。
—大会を通じて、ご自身の成長を感じる部分はありましたか?
阿部)今回、ルールは公式戦に比べて寛容な面もありましたが、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの全3種目で自己ベストを更新することができたんです!
課題もたくさん見つかりましたが、この大会で出せた記録と経験は、次に見据えている9月の国スポ(国民スポーツ大会)に向けて、ものすごく大きい自信になりました。挑戦させてくれた環境に、心から感謝しています。

叶えた念願のストロングガールズ初出場
パワーリフティングは
一人ではできない個人競技
—パワーリフティングを始められてから、ちょうど1年ほどだと伺いました。どのようなきっかけで競技をスタートされたのですか?
阿部)もともと24時間ジムに通っていて、同じタイミングで入会した「同期」と呼んでいるジム仲間がいたんです。その人がパワーリフティングに興味を持っていて。
昔からSNSなどで、女性がフリーウェイトゾーンで堂々とトレーニングしている姿を見て「かっこいいな」と憧れていたんですが、自分一人では使い方が分からず挑戦できずにいたんです。それで勇気を出して、その同期に「フリーウェイトの使い方を教えてほしい!」と頼んだのが始まりですね。そうしたら「ゆいちゃん、絶対強くなるよ」って言ってくれて、そのまま沼にハマっていきました(笑)
—以前から何かスポーツをやられていたのでしょうか?
阿部)小学2年生から高校までバスケットボールをやっていました。あと社会人になってからは、大会などには出ていませんが、エクササイズ感覚で5年ほどムエタイを習っていました。格闘技の動きもすごく楽しかったですね。

—元々、体を動かすことは好きだったんですね。チームスポーツや格闘技をご経験された阿部選手から見て、パワーリフティングならではの魅力とは何でしょうか?
阿部)パワーリフティングって、プラットフォーム(試技場)に立つ時は一人なので、一見個人競技じゃないですか。でも、「一人の力では絶対にできない競技」なんです。そこが一番の魅力だと思います。
重い重量に挑む時は、必ず安全を守るための「補助(スポット)」に入ってくれる仲間が必要です。ジムでも試合でも、みんなで「補助お願いします!」と声を掛け合うのですが、すごいのが同じ階級のライバル同士であっても、相手の試技の時には大声で本気の応援を送るんですよ。
バスケや格闘技だと、試合前や最中は相手に対してバチバチした緊張感があるのが普通ですよね。でもパワーリフティングは、直前までお互いを鼓舞し合って、試技が終われば笑顔でグータッチをする。初めてその光景を見た時、「なんて温かくて素晴らしい競技に巡り会えたんだろう」と感動しました。
パワーの源は“みたらし団子”
—現在のトレーニング頻度やスケジュールについて教えてください。
阿部)基本的に週5日でトレーニングしています。メイン種目(スクワット・ベンチプレス・デッドリフト)をガッツリ行う水曜日と土曜日(または日曜日)は、早くても3時間半、長い時は5時間くらいかけてじっくり向き合います。火曜日と木曜日などの補助種目の日は、1時間ちょっとで集中して終わらせるイメージですね。
—3種目の中で、阿部選手が特に好きな種目はどれですか?
阿部)スクワットが一番好きです!もともと「脚トレ」が好きだったというのもあるのですが、まだまだフォームに改善点があるからこそ、上達していく過程がすごく楽しくて。
—日々のトレーニングの中で、記録を伸ばすために意識していることはありますか?
阿部)コーチのケニーさんが4週間を1サイクルとしたメニューを組んでくださっているのですが、4週目には必ず「前回のサイクルよりも重い重量」に挑戦するメニューになるんです。だから常に、「前回の自分を絶対に超えるぞ」という強い気持ちを持ってバーベルに向かっています。練習の段階から少しずつでも前回の自分を超える感覚を積み重ねることが、何より大切だと思っています。

—試合や練習に向けたコンディション作りで、欠かせないルーティンやモチベーションをあげるために何かされていることはありますか?
阿部)そうですね、色々考えてみましたが「みたらし団子」を食べることですかね(笑)
ハードな練習の前や試合の時には、必ずみたらし団子を食べてエネルギーを補給しています。栄養学的にはサツマイモとかの方が体に合うのかもしれませんが、私はとにかくみたらし団子が大好きで!食べるとテンションが上がってモチベーションが爆上がりするので、私にとって最高のパワーの源ですね。
ライフステージの変化との向き合い方
それを払拭してくれる「ロールモデル」の存在
—今年で29歳を迎えられるとのことですが、女性アスリートとして将来のキャリアや体の変化について考えることはありますか?
阿部)すごく考えますね。29歳という年齢は、結婚や出産などライフスタイルが大きく変化しやすい時期だと思います。女性の場合、出産による中断もありますし、日々の月経周期によってもコンディションが大きく左右されます。男性に比べると、競技を続けていく上での難しさや不安を感じる場面は正直あります。
私自身、「いつか子供が欲しい」という思いもある中で、「その時にパワーリフティングを続けられるのかな」「どこかで競技に区切りをつけなきゃいけないのかな」と悩むこともありました。
—その不安はどのように乗り越えられているのでしょうか?
阿部)いま私が通っている岡山県のジム「ノーリミッツ」のオーナーの奥様(しおりさん)が、二人目のお子さんを出産された後もずっとパワーリフティングを続けられているんです。
マスターズの大会などで、子育てをしながら第一線で活躍されている先輩方の姿を間近で見ていると、「どんなタイミングが来ても、工夫次第でこの競技は続けられるんだ」と大きな安心感と励みをもらえています。身近に相談できる素敵なロールモデルがいることは、私にとって本当に心強いですね。
「女性だからこそ、かっこよさが際立つ」競技の裾野を広げたい
—男性メインだったパワーリフティング界において、近年女性アスリートの活躍が目立っています。女性がこの競技を行う意義についてどう感じていますか?
阿部)パワーリフティングは「重いものを持ち上げた人が勝ち」という、分かりやすく強さが証明される競技です。男性のパワーも迫力があって本当にかっこいいですが、筋肉量でハンデがある女性が、男性に匹敵するような凄まじい重量に挑む姿って、かっこよさがより一層際立つと思うんです。
ストロングガールズのように、初心者でも気軽に一歩を踏み出せる温かい大会があることで、女性の競技人口はもっと増えていくはずです。地方でも初心者向けの「ビギナーズ大会」などが増えてきていますが、こうしたハードルを下げる取り組みがどんどん広がって、男女問わずパワーリフティングの魅力が届いていけば嬉しいなと思います。

重量に挑む「強さ」と「かっこよさ」
—もし今、トレーニングやパワーリフティングに興味はあるけれど一歩踏み出せずにいる女性へメッセージを送るとしたらどんな言葉をかけますか?
阿部)「少しでも興味があるなら、早ければ早いほどいいから、まずは一歩を踏み出してみてほしい!」と伝えたいです。
やってみて合わなければ、「観戦して楽しむ側になろう」でも全然いいと思うんです。私自身、気になることがあればすぐ行動しちゃうタイプなのですが、挑戦してみないと自分に合うかどうかすら分からないですよね。だから怖がらずに、一度その世界に飛び込んでみてほしいなと思います。
「太い脚」が褒め言葉に変わった
—パワーリフティングに出会ったことで、ご自身の内面や日常に変化はありましたか?
阿部)「自分のことが好きになれた」というのが、一番大きな変化です。
実は昔から、自分の太い脚がずっとコンプレックスだったんです。友達と話す時も「私、脚が太いからさ……」って自虐っぽく言ってしまうことが多くて。
でも、パワーリフティングの世界に来たら、「脚が太いこと=努力の証であり、最高の褒め言葉」だったんです!ジムに行けば「もっと脚を太くしたい!お尻を大きくしたい!」って本気で思えるようになりました。自分の体型に対する見方が180度変わって、自己肯定感がすごく上がりましたね。
—見せるための体型ではなく、強さを求めるプロセスの中で自分を肯定できるようになったのですね。
阿部)本当にそうです。コーチのケニーさんからは、パワーリフティングの技術だけでなく、周囲への感謝の気持ちや人としての考え方など、人生において大切なことをたくさん教えていただいています。さまざまな年代の方々と関わる中で、人として成長できている実感があります。
悩んでいた時期にこの競技に出会えて、最高の同期やコーチに恵まれました。「30歳手前の人間でも、こんなに変われるんだ」と知ることができた。パワーリフティングは、私の人生をガラリと変えてくれたかけがえのない存在です。

見据えるのは「スクワット日本記録更新」と「日本一」
—最後に、阿部選手の今後の目標や夢を教えてください!
阿部)「日本一になること」、そして「世界で通用する選手になること」です。そしてもう一つ、絶対に成し遂げたいのが「スクワットでの日本記録更新」です。
—日本記録更新!非常に高い目標ですが、手応えはいかがですか?
阿部)実は、直近の9月に開催される青森国スポ(国民スポーツ大会)で、まずはその記録を狙いに行きたいと考えています。まだフォームの制度や完成度の面でギリギリ攻めている段階ではありますが、残りの練習サイクルでどこまで調整していけるか勝負だと思っています。
そして来年2月には、全国のトップ選手たちが集う一番大きな全国大会(全日本パワーリフティング選手権)が控えています。その舞台で、第一線の選手たちとバチバチに戦えるレベルまで自分を高めていきたいです。
かつては遠い夢物語のように感じていた目標が、日々の練習を重ねる中で少しずつ現実に手の手が届くところまで近づいてきている感覚があります。「自分はもっといける」という自信を胸に、これからも全力でバーベルと向き合っていきます!
ー凄いポジティブ思考でこちらも勇気をもらえました!インタビューありがとうございました。

阿部 由依
RDX Japan編集部
インタビュアー 上村隆介


