BRIDGE OF DREAMS フォールリディア

インタビュー | 2025.8.28  Thu.

パワーリフティングに出会って、見た目以上に心の強さを手に入れました

そう話すのは、第5回Strongirls Strength FestivalでMVPを受賞したフォール・リディアさん。

京都で生まれ育ち、現在はフランスの大学で法律を学びながら競技を続けています。

今回は彼女に、大会の感想やパワーリフティングを始めたきっかけを伺いました。

フォールリディア

生年月日:2005年1月10日

出身地:京都府

経歴:父はフランス人、母は日本人。高校時代にジム通いを始めパワーリフティングに出会う。現在はフランスの大学で法律を学びながら競技を継続し、第5回Strongirls Strength FestivalでMVPを受賞。

「わかってくれる」安心感に包まれた大会

ーまずは第5回Strongirls Strength Festival(以下、Strongirls)lでMVP受賞おめでとうございます。大会を振り返って、率直な感想を教えてください。

リディア)本当に驚きました、勝つとは全く思っていなかったので(笑) 当日はコンディションが大崩れすることもなく、安定して臨めたのですが、特にスクワットで自己ベストを更新できたのはうれしかったです。大会前の練習ではスクワット120kgを挙げていたので、130kgくらいまではいけるんじゃないかと感じていました。でも結局は本番で実際にやってみるまで、自分がどこまでできるかは分からなかったです。

ーStrongirls Strength Festivalに実際参加されてみて大会、会場の雰囲気はいかがでしたか?

リディア)とても良かったです。女性限定の大会だったので、同じ立場の人ばかりという安心感があって、細かい説明をしなくても「わかってくれる」空気があるんです。参加者同士が自然に声を掛け合って、応援し合う雰囲気はとても居心地が良かったですね。

第5回Strongirls Strength FestivalでMVPを受賞

ー以前、フランスの大会にも出場されたそうですね。フランスの大会と比べてどう感じましたか?

リディア)今回が2回目の公式大会で、最初はフランスの大会に出ました。そのときは、もちろん良い経験にはなったのですが、全体的に少しドライな雰囲気を感じました。お互いに声を掛け合うことが少なく、競技に集中しているというより「自分の記録だけを追う」という空気だったんです。その分、今回のStrongirlsでは選手同士が一緒に盛り上がっていて、パワーリフティングの楽しさを改めて感じました。

フランスのジムは和やかな雰囲気で、重い重量や自己記録更新に挑戦する時は、みんなが歓声混じりに応援してくれます。フランスで出た大会では、そのパワーリフティングの良さが反映されてなかったのが残念でした。

ー日本で女性限定大会が開催されること自体、珍しいですよね。

リディア)そうですね、世界チャンピオン級の女性が出場する大会は海外でもありますし、フランスでは「ガールパワー」という女性限定の大会もあります。

ただ今回のようにアマチュアで気軽に挑戦できる女性限定大会は聞いたことがありません。だから今回の大会は特別な場だったと思います。女性にとって参加のハードルが下がるし、同じ境遇の仲間と出会える機会になる。これからもっと広がってほしい大会だと思いました。

ーこの大会に出場しようと思ったきっかけを教えてください。

リディア)1〜2年前にInstagramでこの大会を知って、ずっと興味を持っていました。でも当時すでにフランスに住んでいたので、出場は難しかったんです。今年はたまたま日本への帰国と日程が重なり、「これはチャンスだ!」と思って出場を決めました。私にとってはまだ2回目の公式大会だったのですが、思い切って挑戦して本当に良かったです。

参加者同士が応援し合う楽しい大会だったと語る

「見た目を変えたい」が、
パワーリフティングへとつながった

ーそもそもパワーリフティングを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

リディア)始めたのは高校生の頃、日本に住んでいたときです。当時はすごく痩せていて、少しでも体重を増やしたいと思ってジムに通い始めました。最初は「見た目を変えたい」という気持ちで筋トレをしていたんですが、正直あまり楽しくなかったんです。

ーそこからどうやってパワーリフティングに出会ったのですか?

リディア)きっかけはSNSです。Instagramやネットで女性のパワーリフターを見て、「女性でもこんなに重いものを持ち上げられるんだ!」と衝撃を受けました。その姿がすごくかっこよくて、自分も挑戦してみたいと思ったんです。見た目を変えることよりも「重いものを持ち上げられる自分になる」という方がモチベーションにつながりやすくて、気づいたら完全にハマっていました。

痩せすぎていて体重を増やしたいと悩んでいた高校時代

ー“重いものを持ち上げる”というシンプルな動作で力を証明できる所に惹かれたんですね。

リディア)女性のトレーニングは「痩せるため」「体型を良くするため」といった目的が多いように思います。そんな中で私のように「パフォーマンスのために重いものを持ち上げるのが楽しい」と話すと、周囲から「何を目指しているのか分からない」と言われてしまうこともあります。でも、私にとってはその瞬間の達成感が一番のモチベーションなんです。

ー周囲からそういう声もあったんですね。でも何より大切なのは「自分が一番モチベーションを感じられること」だと思います。実際にパワーリフティングを始めてみて、ご自身の中でどんな変化や気づきがありましたか?

リディア)やっぱり「できなかったことができるようになる」ことが一番楽しいですね。最初はバーベルのバーしか持ち上げられなくても、それが少しずつ重さを足していけるようになる。その積み重ねが明確に数字で見えるので、努力がそのまま結果につながるんです。とてもシンプルだけど、そこに大きな達成感があるんですよ。

ーやっぱり、同じものが好きな人たちとつながれるコミュニティとの出会いも大きかったですか?

リディア)そうですね。パワーリフティングは一人でやるイメージが強いかもしれませんが、実際は競技者同士のコミュニティが温かいんです。みんな同じ経験をしているからこそ、励まし合ったり、ちょっとした会話でも気持ちが通じる。競技の魅力はもちろんですが、そういう人とのつながりも私を引きつけている大きな理由のひとつです。

ー今、どのような環境で練習されているのか教えてください。日本ではパワーリフティングができるフィットネスジムは限られていますよね。

リディア)現在はフランスに住んでいるのですが、ヨーロッパではパワーリフティングが普及しているので専門ジムも多く、環境には恵まれています。日本にいた頃は一般的なフィットネスジムでトレーニングしていましたが、デッドリフトが禁止されているところも多く、正直やりにくさを感じることもありました。フランスでは一般のジムでもパワーリフティング用のバーベルが置いてある所が多いので、とても助かっています。

見た目の変化以上に、
気持ちの面での自信が大きくなった

ーパワーリフティングを始めてから、ご自身の中で変わったことはありますか?

リディア)すごくたくさんあります。まず体の変化ですね。競技を始める前は体重が50kg台でしたが、今は70kgほどになりました。筋肉がしっかりついて、以前よりもずっと力強くなった実感があります。見た目の変化以上に、気持ちの面での自信が大きくなったことが一番の収穫だと思います。

ー自信につながったのは、やはり重量を挙げられるようになったことが大きいですか?

リディア)はい。重いバーベルを持ち上げるときって、自分の限界に挑戦している感覚があるんです。それを成功させた瞬間に「できる」という強い自信につながります。ちょっと不思議かもしれませんが、重いものを挙げるだけで精神的にポジティブになれるんです。もともと自己肯定感は高い方だと思いますが、「自分らしい」競技を見つけたことで、更に自信が加わった感覚があります。

ーもともと運動神経は良かったのですか?

リディア)全然です(笑) 小さい頃からスポーツは苦手で、これといった経験もありませんでした。ジムに通い始めたのが初めての本格的な運動体験なんです。だから最初は「こんな自分でも」という考えがありましたが、メンタルもパフォーマンスのためにすごく大事っていうことに気付きました。

今は逆に、「自分だからこそできるんだ」って考えるようにしています!

ー運動が苦手な人でもチャレンジできる点は、この競技の大きな魅力だと思います。では、実際のトレーニング頻度について教えていただけますか?

リディア)今は週4回トレーニングをしています。1回にかける時間はだいたい3時間くらいです。ただ、私の場合は友達とおしゃべりしながらやることも多くて(笑) 集中すればもっと短く終わると思います。中にはジムに1日中いて、6時間くらい練習する人もいるんですが、実際にはセットの間に長い休憩をとったり、仲間と話したりしているので時間が長くなっているだけなんです。

パワーリフティングって、そういう意味では「めんどくさがり屋の競技」だなと思うこともあります。練習量をただ増やせば強くなるわけではなくて、疲労をきちんと管理しないとパフォーマンスは上がりません。結局のところ、練習量そのものは選手同士で大きな差はなく、質やコンディション管理の方が大切だと感じています。

フランスでのトレーニングの様子

ー疲労をコントロールすることが重要とのことですが、これまでの競技生活の中で大きな怪我を経験されたことはありますか?

リディア)大きな怪我はありませんが、背中を痛めたことはあります。幸い深刻なものではなかったので、しっかりケアをして乗り越えることができました。パワーリフティングは重量が大きい分、体への負担が心配されがちですが、実際には「負担」というより「疲労」の管理が大事だと思います。

トレーニングプログラムや疲労のコントロールがきちんとできていれば、逆に体はどんどん健康で力強くなっていくんです。50代、60代、70代になってもトレーニングを続けられれば、骨密度もキープできて毎日の生活はもっと楽に、快適になっていくと思います。

ー心と体、両方の成長を感じているわけですね。

リディア)昔の私も好きですが、今の私はもっと自分らしいと感じています。筋肉がついて強くなった体と、挑戦を通じて得た精神的な強さ。その両方が揃った今の自分を、とても好きだと思えています。

楽しく、長く続けることが私のモットー

ーこれから競技者として挑戦したいことや目標はありますか?

リディア)まずは全日本大会に出場することが短期的な目標です。これまで大会は年に1回しか出られていないので、来年はもっと多くの大会に出て経験を積みたいと思っています。出場回数が増えれば、試合での緊張感や課題も見えてくると思うので、その経験を大事にしたいです。

ー長期的にはどのようなビジョンを描いていますか?

リディア)パワーリフティングは年齢を重ねても続けられる競技だと思うので、健康に気を配りながら長く取り組みたいです。マスターズ(シニア)部門に出場できる年齢になるまで、怪我をせずにずっと続けていきたいですね。私にとって大事なのは「強くなり続けること」、「楽しく、長く続けること」です。この二つを大事にして続けていきたいです。

ー現在は学生とのことですが学業との両立も大変そうですね。どのように生活のバランスを取っていますか?

リディア)フランスの大学で法律を学んでいるので、勉強とのバランスは正直難しいです。授業もレポートも多くて、トレーニングとの両立に悩むこともあります。でも、どちらも私にとって大事なことなので、時間をうまく使いながら取り組んでいきたいです。将来はフランスで働く可能性が高いですが、日本にも定期的に帰国する予定です。世界中どこで生活することになっても、パワーリフティングと長く付き合っていけたらと思います。

大学では法律を学んでおり、
将来は法律に携わる仕事に就きたいと考えている

ー最後に、これからパワーリフティングを始めてみたいと思っている女性たちにメッセージをお願いします。

リディア)とにかく「始めること」が一番大事だと思います。最初はバーベルのバーしか持ち上げられなくても全然問題ありません。少しずつでも続ければ必ず成長を実感できますし、どんなレベルでも楽しめるスポーツです。日本では「女性が筋肉をつけるのはちょっと…」という風潮もまだあると思いますが、気にせず自分のやりたいことを優先していいと思います。私はパワーリフティングを通じて自信を持てるようになったので、ぜひ一歩を踏み出してほしいですね。

ー今回はフランスからリモートでお話を聞かせていただき、ありがとうございました。これからもパワーリフティングを楽しみながら、自分らしい日々を送っていただきたいと思います。

フォールリディア

RDX Japan編集部
インタビュアー  上村隆介

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