BRIDGE OF DREAMS 河西 香南

インタビュー | 2025.5.27  Tue.

日本初の女性限定大会を日本全国に広げていきたい

女性限定パワーリフティング大会「ストレングスフェスティバル」の主催者、河西香南さん。
学生時代を海外で過ごし、自由で多様な価値観に触れてきた彼女は、競技を通じて“女性が輝く場”を日本にも広げようとしている。

今回は、大会誕生の舞台裏や河西さん自身の歩み、そしてこれからのビジョンについて話を語っていただきます。

河西 香南 (かさい かなん)

生年月日:1996年7月10日

出身地:神奈川県横須賀市

経歴:1996年神奈川県横須賀市生まれ。7歳でインドネシア・バリ島へ移住し、その後はオーストラリアにて10年間を過ごす。帰国後は横浜市立大学へ進学し、筋力トレーニングと出会ったことをきっかけに、スポーツ科学を専攻。身体の限界や運動・栄養に興味を深め、パワーリフティングを始める。2020年にはポッドキャスト「バーベルラジオ」を立ち上げ、専門家の声を発信。2023年、日本初となる女性限定のパワーリフティング大会『ストレングスフェスティバル』を主催。

強く、美しく。女性限定大会
『ストレングスフェスティバル』の魅力とは?

ー河西さんはパワーリフティングの女性限定大会「ストレングスフェスティバル」を主催されておりますが、まずはこちらの大会についてご紹介いただけますか?

河西)「ストレングスフェスティバル」は、バーベルトレーニングに取り組む女性を応援する大会であり、プラットフォームです。2023年2月に第1回大会を開催し、現在は年に2回を目安に開催を続けています。主な競技内容は、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトのいわゆる“ビッグスリー”にチャレンジする形式で、参加者が純粋に楽しめることを重視したイベントになっています。

ー女性限定という点がとても特徴的ですね。日本では他に例はないのでしょうか?

河西)実は、日本国内では私たちが初めて女性限定のパワーリフティング大会を開催した形になります。海外だと特にアメリカでは女性だけの大会が存在するようですが、日本ではまだまだ珍しく、私たちの取り組みがその先駆けになったと思っています。

ー大会を始めるにあたって、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

河西)やはり根本にあったのは「もっと女性にバーベル競技を楽しんでほしい」という想いです。パワーリフティングって、もともと男性人口が非常に多い世界なんです。女性に声をかけても、「重いものを持つのはちょっと…」とか、「私には無理」といった反応が多くて。じゃあ、そういう心理的ハードルを下げられる場を作れないかと考えたのが出発点です。

前例のない挑戦。日本で初めて、女性限定の大会を開催

ー実際に大会を開催してみて、どんな反響がありましたか?

河西)想像以上の反応をいただきました。第1回大会では32名の女性に参加いただき、10代から60代まで、本当に幅広い年齢層でした。初心者や、他競技からの参加者も多くて、私自身が驚きましたね。終わった後には「今日は来てよかった」「新しいことに挑戦できた」といった言葉をいただき、本当にやってよかったと心から思いました。

ー実際に大会運営を行うとなると色々と気苦労もあるかと思いますが、特に初回は不安も大きかったのではないでしょうか。

河西)最初はめちゃくちゃ怖かったです(笑) 前例がなかったので、誰もやっていないことに挑む怖さというのがありました。「参加者がゼロだったらどうしよう」とか、「運営が回らなかったら…」という不安はずっとありました。でも幸い、これまで審判や実況、補助員などで関わってきた競技仲間が30名ほど集まってくれて、当日はチームでしっかり回せました。

ー参加者の集客はどのように行ったのですか?

河西)「ストロングガールズ」というインスタグラムアカウントを2021年頃から細々と運用していて、そこから情報を発信しました。あとは広告も最小限に活用して。正直、まだブランドも弱かったので、既存のネットワークをフルに使った感じですね。でもありがたいことに、それだけでも多くの方に参加いただけました。

ースポンサー集めもご自身で行ったのでしょうか?

河西)はい、これもすべて自分で動いています。正直「営業」というより「情熱」で動いてます(笑) 「こういう大会をやってます」「ぜひ応援していただけませんか」と熱意を伝えるスタイルです。業界内のつながりも大事にしていますが、それだけでなく一般層にも広く興味を持ってもらえるよう工夫しています。

声援や笑顔が飛び交う、温かい雰囲気の中で競技が進行されている

ー大会のコンセプトで大切にしていることがあれば教えてください。

河西)トレーニングって、「痩せるため」「綺麗になるため」だけじゃないんですよね。もっと根本的に、心と身体を鍛え、自己肯定感や達成感を得るための手段でもあると思っています。女性にとって「重いものを持つこと=怖い・不向き」と思われがちな部分を、「楽しそう、やってみたい」に変えるための大会にしたいと思っています。

ーストレングスフェスティバルでは、“競技性”より“楽しむ”という雰囲気が強いように感じますが、そのあたりは意図されていますか?

河西)そうですね。もちろん競技としての面白さもありますが、私たちの大会はあくまで「チャレンジする場」としての意味合いが強いです。だからこそ、公式大会で必須の“シングレット(競技用スーツ)”の着用も任意にしていますし、軽い重量からのチャレンジも大歓迎なんです。「上手くできなくてもOK」「失敗してもOK」という空気感で、誰もが挑戦できる雰囲気を作るようにしています。

ーそれにしても、日本では女性がウェイトを持つこと自体に抵抗があるように感じます。

河西)おっしゃる通りで、日本ではまだ「トレーニング=痩せるため」と考える人が多いんですよね。特に女性は「筋肉がつくと見た目がゴツくなる」と誤解していたり、そもそも「私には無理」という思い込みが根強いです。でも、私から見ればトレーニングはもっと多様な意味があると思っていて、自分の体を知る、変化を実感する、そして精神的にも強くなれる──そういった価値をもっと伝えていきたいと強く感じています。

海外での体験を大会づくりに活かしたい

ー河西さんご自身がトレーニングを始めたきっかけは何だったのですか?

河西)実は、10代の頃に付き合っていた彼に振られたのがきっかけなんです(笑)「見返してやる!」っていう、すごく単純な理由でした。そこから見た目を変えたくてトレーニングを始めたのですが、次第に見た目以上に“心の変化”に気づき始めました。重たいものを持ち上げられた時の達成感、自分に自信が持てるようになった感覚、そして徐々に変わっていく自分の姿勢や習慣──そうした積み重ねが、今の私を作ってくれたと思っています。

ー振られたことがきっかけで今があるんですから、ある意味その方には感謝ですね(笑) パワーリフティング自体はいつから始めたのですか?

河西)確かにそうですね(笑) パワーリフティングは2018年の春に、初めて大会に出場しました。それ以前からトレーニングは続けていましたが、競技としてのパワーリフティングに挑戦したのはその時が初めてでした。実際に出てみて思ったのは、勝ち負けというよりも“自分自身との勝負”なんだということ。周りは敵じゃないし、むしろお互いを応援し合う、すごく温かいコミュニティでした。

ーご自身も選手として結果を残されていますよね。

河西)ありがとうございます。2021年の「ジャパンクラシックパワーリフティング選手権」では優勝させていただきました。ただ、その後は競技レベルもどんどん上がってきていて、最近は2位や3位で終わることも多いです。特に女性の選手がどんどん増えていて、競争も激しくなっています。それでも、私の中ではずっと目標にしている“トータル400kg”という数字があります。スクワット・ベンチプレス・デッドリフトを合計して400kg。これを達成するまでは、まだまだやめられません!

大会でも好成績を重ねてきた実力者

ー河西さんは小中高と海外で生活をされていましたが、国内と海外で、トレーニング文化の違いを感じたことはありますか?

河西)ありますね。私は7歳から高校卒業までを海外で過ごしました。特にオーストラリアでは、子どもの頃から“体を動かすこと”が当たり前でした。例えば「50m泳げないと進学できない」とか、「学校終わりに車でジムに行く」のが普通だったり。身体能力が高く、運動が生活の中に溶け込んでいた印象があります。一方、日本では「痩せるために運動する」「見た目のために筋トレする」という印象がまだ強くて、特に女性がバーベルに触れることには心理的ハードルがあるように感じます。

学生時代に海外で暮らした経験が、今の活動の土台となっている

ーそのスポーツに対しての接し方の違いが、今の大会運営にも活きていますか?

河西)すごく影響していると思います。海外で「体を動かすこと=楽しい・当然」という感覚を体で覚えていたので、今の大会でもその感覚を再現したいという思いがあります。「みんなでやれば怖くない」「重たいものを持つのって楽しい」という空気を作ってあげれば、日本でもトレーニングはもっと広がると信じています。

ー現在28歳(2025年時点)とのことですが、かなり若い年齢で運営までされているのはすごいですね。

河西)ありがとうございます。でも私自身は、やりたいことをただ一つずつ積み上げてきただけなんです。最初は「見返したい」という気持ちから始まった筋トレが、次第に自分を変える手段になって、仲間ができて、今では大会を主催するまでになりました。運営は大変ですが、終わった後に「ありがとう」「また出たい」と言っていただけると、すべての苦労が報われます。

大都市だけでなく、
全国各地で開催の機会を広げたい

ー今後、この「ストレングスフェスティバル」をどのように展開していきたいとお考えですか?

河西)まずは、大都市だけではなく地方でも大会を開催したいですね。東京や横浜などではすでに開催してきましたが、地方にもトレーニングに興味を持っている女性はたくさんいると思います。特に、たとえば四国などはパワーリフティングに取り組む女性が非常に少ないと感じていて──だからこそ、そういった地域で大会を行うことで、新しいムーブメントが生まれる可能性があると思っています。

ー確かに、地方の女性たちにとっては貴重な機会になりそうです。

河西)そうですね。地域によってはフィットネスに触れる機会が少なかったり、競技人口が極端に少ない場合もあります。そういう地域で大会を開けば、メディアの関心も得やすいかもしれませんし、実際に地方テレビ局や新聞に取り上げてもらえたら、大会の存在自体がさらに広まると思います。

ー開催頻度としては、どのくらいのペースを想定されていますか?

河西)現在は年に2回、半年に1回くらいのペースで考えています。ただ、これでも準備はかなり大変で、1大会あたりの準備に4〜5ヶ月はかかります。場所選び、スポンサー交渉、ボランティアの確保、SNSや広報、当日の運営……本当に細かいことがたくさんあるので、今はこのくらいのペースが精一杯ですね。

地方の女性たちにも、この熱を感じてもらいたい

ー参加者を増やしていくためには、大会だけでなく情報発信も重要になってくると思います。そのあたりはどのようにお考えですか?

河西)おっしゃる通りです。実は今、「ストレングスフェスティバル」を単なる大会ブランドではなく、情報プラットフォームにしていきたいと考えています。日本では、パワーリフティングやバーベルトレーニングに関する正しい情報がまだまだ少ないんですよね。調べても断片的だったり、専門的すぎたり、女性向けのコンテンツが極端に少なかったりする。

ー確かに女性向けのコンテンツはYouTubeなどでもあまり見かけませんよね。

河西)そうなんです。特に女性トレーニーの発信は本当に少ない。だからこそ、「ストロングガールズを見れば、基本的なことは全部わかる」と言ってもらえるような、ワンストップの情報サイトにしていきたいと考えています。初心者向けの解説、ウェアや器具の紹介、選手インタビュー、栄養学やトレーニング法──そういったものをわかりやすく発信していけたらいいですね。

ー今後、大会以外のイベントや取り組みを考えていたりしますか?

河西)そうですね、将来的には講習会やワークショップ、バーベル初心者体験会のような取り組みもできたらと思っています。大会の敷居が高いと感じる人にとって、まずはバーベルに触れる場を作ることが大切ですし、仲間と出会える場所としても価値があるはずです。

ー日々の活動の中で、大切にしているマインドセットや習慣はありますか?

河西)「特別なことより、当たり前を積み重ねる」。これは自分の中で常に意識していることですね。トレーニングって、ものすごく良いセッションが1回あったからって結果にはつながらないんです。むしろ、何気ない日常の積み重ねの中にこそ、大きな成果が眠っていると思っています。毎日の食事、歩数、睡眠、練習──当たり前のことを当たり前にやる。それが私のスタイルです。

ー大会運営やジム経営でも、そういった姿勢は反映されていると感じることはありますか?

河西)はい、すべてに共通していると思います。たとえば「自分が納得していないものはやらない」「妥協しない」という姿勢もそうです。自分勝手かもしれないけれど、自分の感覚に素直でいたいんです。大会の方向性にしても、ジムの方針にしても、「こうあるべきだ」という自分の中の直感を大事にしています。

ーご自身の変化や成長については、どのように捉えていますか?

河西)10代、20代前半の頃と比べると、だいぶ考え方も変わってきました。以前は「こうじゃなきゃダメ!」と突っ走るタイプだったのが、今は「まあそういう変化もあるよね」と受け入れられるようになってきた気がします。自分が変わっていくことに対して、前向きに、柔軟に対応していきたいですね。

ー最後に、河西さんが考える“プロフェッショナル”とは何だとお考えですか?

河西)“プロ”とは、責任感とプライドを持って全力で取り組む人だと思います。その人の言葉や行動から「熱」を感じられる人。私は、そういう人を見ると尊敬の気持ちが湧きますし、自分もそうありたいと思っています。競技者としても運営者としても、どこかで手を抜かず、自分の仕事に誇りを持ち続ける──それがプロフェッショナルであるということだと考えています。

ー今日は女性限定大会の意義について、たくさんのお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

河西 香南

編集後記:今回のインタビューは、RDXアンバサダーのYURIさんが参加されたご縁から実現しました。日本ではまだ珍しい、女性に特化したパワーリフティング大会ということで、河西さんのお話を伺う中で、RDXのブランド理念とも多くの共通点を感じました。大会も、そして河西さん自身もまだ若く、これからがとても楽しみな存在です。この大会から、“強く、美しい”女性たちが多く輩出され、「美しさ」の価値観に新たな選択肢が加わっていくことを心から願っています。(RDX Japan 編集部)

インタビュアー  上村隆介

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