インタビュー | 2024.9.4 Wed
『関わる人にはしっかり対価を生みたい』
そう語るのは、元祖コスプレ系バンドPsycho le Cému(サイコ・ル・シェイム)のボーカルであり、プライベートパーソナルジム『MIRO』の代表を務めるDAISHIさん。
バンド活動を続けながら、ジム経営者としても多様なニーズに応じた体づくりをサポートしています。
今回のインタビューでは、ジム運営に関するお話と、ジム経営がどのように音楽活動に影響を与えたかについて伺いました。
DAISHI
生年月日:1976年2月5日
出身地:兵庫県姫路市
経歴:
元祖コスプレ系バンド、Psycho le Cému(サイコ・ル・シェイム)のボーカルを務め、2002年、日本クラウンからメジャーデビュー。
「ニューズウィーク日本版」(2004年10月20日号)の特集「世界が尊敬する日本人100」に選出された。
現在はプライベートパーソナルジム『MIRO』を運営し、オーナー兼トレーナーとして、身体作りを通してクライアントの生活向上に貢献している。
YOSHIKIさんのストイックさに触発されたのが始まり
―DAISHIさんは、Psycho le Cemuという元祖コスプレ系バンドのボーカルを務めておりますが、パーソナルジムも運営されているとのことで、今回インタビューのご依頼をさせて頂きました。
DAISHI)過去の記事読んだらガチな格闘家が多くて「自分で良いのかな!?」って思いました(笑) でもこういう機会を頂けてありがたいです。
―以前、YouTubeでDAISHIさんのインタビューを拝見した際、ジムを経営されていることを知りました。まずは、パーソナルトレーニングジム「MIRO」(以下、MIRO)を始めたきっかけについてお聞かせいただけますか。
DAISHI)過去にX JAPANのYOSHIKIさんの番組に出演する機会が何度かあって、僕は終わった後すぐ飲みに行ったりしていました。一方で、YOSHIKIさんはパーソナルトレーナーをつけてトレーニングをされてて、身近でそういう姿勢を見て、「これは自分もやらなあかんな」と思い、とりあえずパーソナルトレーニングジムに行ってみることにしました。これがフィットネスを始めたきっかけです。
でも最初の1年半ぐらいトレーニングが全然好きになれなかったんですよ。でもある日突然スイッチが入って、フィットネスにのめり込んでいったんですよ。それで「バンドをやっていないときには、自分でジムを作ったらずっとトレーニング出来るじゃん!」と考えたのが、ジムを作るきっかけでした。
当初は、バンドマンが経営するジムということでファンの方々がたくさん訪れるだろうと考えていましたが、現実はそんなに甘くなかったですね(笑)
―ヴィジュアル系ファンを「バンギャ」と呼ぶことが多いですが、バンギャとフィットネスが結びつくイメージを私はあまり持っていませんでした。実際にジムを経営されて、その点をどのように感じていますか。
DAISHI)最初は全然だったんですけど、ゆっくりと会員が増えてきたんですよ。SATOちくんって言って、ムックというバンドの元ドラムの子も働いてるので、ムックのファンと僕がやっているPsycho le Cemuというバンドのファン、他のバンドのファンの方も来られるようになりました。でも、不思議なんですけど一般の方の方が多いです(笑) バンギャと言われる方は全体の3分の一もいるかな?というぐらいです。
―日本でもフィットネス人口は年々増えていますが、音楽業界でも体を鍛える人が増えているのでしょうか。
DAISHI)確かにヴィジュアル系の先輩や有名なバンドの方とかも結構来てくれるんですよね。トレーニングすると歌とか演奏が凄く楽になるってみんな言うし、実際自分もだいぶ歌いやすくなりましたね。
フィットネスにかけられる
予算と時間は人それぞれ
―MIROには音楽活動をされている方も多く通われていると伺いましたが、そういった方々は、どのような目的やリクエストでトレーニングを依頼されるのでしょうか。
DAISHI)みんな細マッチョがいいって言いますね。自分自身も元々そういうつもりで、ボディービルダーっていうよりは、ステージで立ってかっこいい体が目指せたらなと思ってるので、細マッチョを目指した体作りっていうところはありますね。
―今日初めてMIROに伺いましたが、駅から近いにもかかわらず静かな場所で、とても良い印象を受けました。中目黒に店舗を構えた理由は、アクセスのしやすさなどを考慮されたのでしょうか。
DAISHI)何十件もテナント見た中で、ここが自分の中でバシッと来ただけなので、中目黒でやりたいということではなかったんです。三軒茶屋、自由が丘も見ましたし、表参道も下北も全部見たんですけど、本当にこの物件がいいなと思ってここを選びました。
―多くの方は鍛えられていない状態からスタートすると思いますが、細マッチョになるためのトレーニングプランはどのように組み立てているのですか?
DAISHI)個人に合わせてカウンセリングを行いながらトレーニングを進めますが、急激に痩せたいという方は比較的頻繁に通われることが多いです。そういった方には、自宅でできる宿題をきっちり作成し、食事管理も僕たちが大会に出る前くらいの厳しい内容で指導することもあります。
―その宿題の中には、別のジムで個人でトレーニングをする際のメニューも用意されているとお聞きしました。
DAISHI)そうです。うちのメニューで人気なのが、月1とか月2とかのプランです。値段もリーズナブルなので通いやすいところも良いのかなと。よく「月に1回で成果出るの?」って皆さん言うんですけどその分、宿題をたくさん出すんです。他のパーソナルトレーニングジムって、月4回通ったら食事管理も見るよってところが多いんですが、うちは月1回でも見てるんです。
パーソナルトレーニングジムって僕も通ってたから分かるんですけど、トレーニングするだけにしたら高すぎると思うんですよね。日々の生活習慣を見てもらってアドバイスもらうのと、日々の宿題をちゃんとやるかやらないかによってだいぶ変わってきます。
―今の時代、鍛えたいとか痩せたいと思えば、調べる手段はたくさんありますが、自分の体や体調を客観的に見ることができる人は少ないですよね。情報があっても、何から始めればいいのかわからない方が多い印象です。
DAISHI)大体の人が間違えたトレーニングをしたりダイエットをしてますよ。皆さん体重を気にしますけど、体脂肪を特に気にしてほしい。筋肉質になると水分量とか筋肉量とか増えて、体重も増えますからね。
―先ほど、人気のプランやコースがあるとおっしゃっていましたが、それらを作る際に気を付けている点などはありますか。
DAISHI)元々は短期集中3ヶ月とか2ヶ月コースとかやってたんですけど、終わった後にリバウンドする方が多く「結局リバウンドするなら意味がないな〜」と思って月額コースをメインに変えたんです。
フィットネスにかけられる予算は人それぞれですので、通える時間や予算に合わせて、希望に沿ったボディメイクやダイエットプランを提案するようにしました。その結果、月額制にしたことでお客様が大幅に増えたんです。
やっぱり3ヶ月で何十万支払うってすごく勇気がいるし、3ヶ月終わったらそのまま体型維持できるみたいな妄想を持っている方も一定数いらっしゃるので。でも実際には、やめたらすぐリバウンドしてしまうのが現実です。MIROが調子良くなったのはこの月額制度にしてからですね。
ファンビジネスでうまくいくと思ったが、
甘くはなかった
―DAISHIさんがフィットネス業界に参入されてから、音楽活動にはどのような変化がありましたか。
DAISHI)ラジオに出ても、雑誌のインタビューでも、音楽の話より、フィットネスの話を聞かれるんですよ(笑) 音楽のことはもう聞き慣れてるし、フィットネスジム経営しているバンドマンが珍しいからってこともあると思いますが。
―音楽や俳優をされている方が並行して飲食店を経営されていることはよくありますが、パーソナルジムを経営されているのは珍しいですよね。
DAISHI)本当はそんなに深く考えていなかったというか、店舗があったら毎日トレーニングできるなと思った所からだったんで(笑) 確かにバンドマンでも鍛えてる方は多いですけど、自分で店舗構えようみたいなところまではいないかなと思ってます。
―アーティスト活動とジムの経営を両立されていて、難しかったと感じたこと、良かったことを教えてください。
DAISHI)最初の頃は両立するのも大変でしたし、経営するのも難しかったです。甘く考えてましたし、ファンビジネスで成り立つと思ってたけど全然成り立たなかったんです。
コロナの前はジム経営が結構大変だった時期だったので、バンド活動で助けられたし、コロナの時期はバンド活動が出来なかったのでジムの経営してたことによってすごく助けられましたね。
(本人提供)
―他の音楽関係者がジムの経営に参入しないのは、他の業種に比べて敷居が高く感じる部分もあるのでしょうか。
DAISHI)正直好きじゃないとできないと思います。1日のスケジュール見て、この時間は空いてるから胸トレできるなっていう感覚でいつもいますから(笑) うちの従業員全員そうですよ。筋トレが得意な人は筋トレが好きだからトレーナーになるんですよ。
―勤められているスタッフの方々に対しても、トレーナーとしての資格を取ってもらうために、研修などみっちり行っているんですよね。
DAISHI)元々、ここの店長に関しては、僕より先にフィットネスの世界でトレーナーもしてたし、専門の学校も出ているので、2年間ぐらい彼にトレーニング教えてもらってたんです。それからこの子とやったら一緒に仕事やってもいいなと思ったので口説いて、一緒にやることになったんですよね。
ムックのSATOちくんは、筋トレとサーフィンが好きだったので体つきは結構かっこよかったんですけど、トレーナーとしてはド素人だったのでバンドをやりながら、研修をきっちりやってもらって、資格も取ってもらいました。
―しかも、メンズアスリートモデルグランプリにも選ばれているんですよね。資格と肩書きの両方を手に入れたということですね。
DAISHI)ムックの他のメンバーとかもトレーニングに来るんですけど、「バンドやめても社会人としてやっていけてんじゃん!」って言われてますから(笑)
実際、バンドマンとかタレントの第二の人生にはすごくいいと思います。ファンの人がついてきてくれるビジネスなので自分自身も働きやすいですし。
(写真左:SATOち さん 写真右:DAISHI さん)
対価を生んでサイクルを回すことが
みんなの幸せになる
―DAISHIさんも過去には夜型生活でお酒を飲む機会が多かったようですが、現在のDAISHIさんの1日のスケジュールを見ると、しっかりと8時間の睡眠を確保されていますよね。
DAISHI)トレーニング量を増やすことよりも休む方が大事なんですよね。1時間から1時間半で集中的なトレーニングをして、あとは体をしっかり休ませてあげないと筋肉って育たない。極端に言えばトレーニング時間は15分とか20分でもいいんです。たまに睡眠時間短いアピールされてる方がいるんですが、ぱっと見て太ってる方が多いです。寝ないと代謝が悪くなったりホルモンバランスが崩れるので太りやすいんですよね。なので睡眠はしっかり取ってくださいと伝えています。
―DAISHIさんはフィットネス業界に参入されて、この業界をどのように見ていますか。
DAISHI)振り返ってもう一度同じことができるかって言ったら、勇気がないです。本当に大変な時期があったので。ビジネスとして店舗展開を広げていってみたいな感覚は、ないです。1店舗を形にするのに3年かかりましたから。
―中目黒だけでもトレーニングジムがたくさんありますよね。極端に安い店舗も増えてきましたが、安さ勝負になると大手にはなかなか勝てないのではないかと思います。その点についてはどう思われますか?
DAISHI)1番安いところで、1時間3,900円っていうの見たことあります。その金額でやってたら働いてる人の収入ってどうなっているんだろうかって思っちゃいますよね(笑) 知り合いのパーソナルトレーナーは、1時間15,000円から下げてない子もいますよ。自分が働く1時間は一緒やからっていうので。なのでどんだけジムとトレーナーにブランド力を付けるかになりますね。
―今後、MIROが目指す方向性や、展望などあればお聞かせください。
DAISHI)無茶な店舗展開はしたくないですけど、認知されてるバンドマンであれば、その影響力で集客に困ることは少ないですよ。普通のトレーナーでは難しいですが、知名度のあるバンドマンであれば一度に50人ほどの会員を集めることも出来ますからね。
僕らも25年バンドやっていますけど、バンドマンとかミュージシャンの人って業界をやめていってるのが9割なので、そういう人たちがトレーニング好きで働きたいなって言ってもらえる環境をうまく広げていければとは思ってます。
―それでは最後に、DAISHIさんにとって「プロ」とは何だと思いますか。インストラクター、経営者、音楽家など、どの分野においても構いませんので、お考えをお聞かせください。
DAISHI)プロっていうのは、ちゃんと対価を生む人のことなのかなとは思います。
自分はバンドでボーカルやってることをあまりプロと思ってやってないんですよ。バンドをやりたくてやってるので。自分の人生の中で1番の最高の遊びが音楽でありたいなと思っているのであまりプロ意識を持ってやってる感じはないのかなとは思います。
MIROに関してはお客様に対してもそうだし、スタッフに対しても、ちゃんとサイクルが回ってみんなが幸せになれていることを大事にしてます。
なので接する方々にしっかりと対価を生むことは考えてますね。
―バンドマンのフィットネス事情なども知れて面白かったです!バンドもジムもこれからも応援しております!
編集後記:DAISHIさんにお会いする前は、どんな方なのか興味津々でしたが、実際にお会いすると、腰が低く、気さくなお兄さんという印象を受けました。バンドマンというと、お酒が好きで生活リズムが逆転しているというイメージがあるかもしれませんが、それはもしかしたら昔の話かもしれません。音楽活動を続けるためには体が資本であることを理解し、しっかりと体のケアを行っているDAISHIさんは、新しい形のバンドマンを体現していると言えるでしょう。
ちなみに、ここだけの話ですが、学生時代に仲が良かった女の子がDAISHIさんのファンだったこともあって、個人的にも親しみが湧きました(笑)(RDX Japan編集部)
インタビュアー 上村隆介