GLORY BEYOND DREAMS 中村倫也選手インタビュー_前編

ーMMA転向後7戦全勝、おめでとうございます。周りの反響はいかがですか。

中村）UFCファイターになり、お声掛けいただく機会も増え、普段の練習も気が引き締まるようになりました。

ー現在の活動拠点はどちらですか。

中村）実家のある埼玉県東大宮市に住んでいますが、ジムが地元にはないので公園でランニング等のトレーニングをしています。フィジカルトレーニングに関しては、ボディービルの世界チャンピオンになった方が同じ東大宮市のご出身なのでご指導いただいていています。
ただ、スパーリングや相手が必要な練習は都内なので、毎日都内に移動しています。

ーUFCの試合はどちらで行われたのでしょうか。

中村）UFCの本社がラスベガスに施設を構えており、2月の試合はそこで行いました。日本と雰囲気が全然違っており、本場の方は日本人より感情表現が激しいので、ショーの中にいる感覚でした。エンターテインメント性が強く、日本の方が戦いに集中させてもらえて、慣れるまでは日本の方が戦いやすい感覚はありました。

ー日本との違いは何か感じましたか。

中村）日本より気が散ってしまうようなことが起こるのですが、レスリングの時に体感していた部分だったのでそこまで影響はありませんでした。レスリングではいきなり試合開始が30分早くなったり、試合までのルーティーンが作れなくなることもあるので、いかに集中できる環境を作るか、という経験が活きました。

ーRoadtoUFCは優勝したら確実に契約が決まる条件だったのでしょうか。

中村）そうです。現在はUFCと中村倫也個人が契約しています。直前はLDHに所属しており、これまでの過程において、LDHなしでは成し遂げられなかったので感謝しています。

ー現在のスポンサー契約は、中村選手個人にスポンサーの方がつくのでしょうか。

中村）そうです。UFCはウェアにスポンサーをつけられず旗も作れないので、一緒に夢を見て最高の景色を見ましょう、という僕の思いに乗って応援してくれるファミリーのような方がスポンサーとなって一緒に戦ってくれています。東大宮のパワフルなおじさん方も応援してくれています。

ー幼少期の頃からお伺いします。レスリングを始めたきっかけを教えてください。

中村）父が修斗に携わっていたこともあり、2歳弱の時に見た試合がきっかけです。当時修斗の四天王だった朝日昇さんというファイターがいたのですが、僕にとっては遊んでくれる面白いお兄ちゃんのような存在でした。後楽園で、母の膝の上で試合を見ていたのですが、優しいお兄ちゃんが本気で殴り合っていて、周りの大人たちが熱狂している姿は、幼い僕にとって衝撃だったんです。朝日さんは対戦相手のブラジル人に首を絞められて失神しちゃって、母も「死んじゃうからタップして」、と泣きながら言っていて、当時の僕からしたら、「お兄ちゃん死んじゃうの？なんで？人前で死のうとしているの？」とこの世界は、おかしいだろう、ここで何が起こっているのか知りたいと思うほど印象に残りました。

試合後またお兄ちゃんに会えた時に、当時の僕にとっては死ぬかもしれないおかしなことをしているのに、いつも通り優しくてかっこ良い存在に戻っていました。2ヶ月後にまた後楽園で試合があり、前回の試合がトラウマになっていたので、「今度はお願い、勝って、死なないで」と思っていました。結果勝ってくれて本当のヒーローの姿を、生身の人間が近くで、背中で見せてくれたんです。

その経験を繰り返しているうちに、つらい思い、悲しい思い、それらも含めて楽しかった幼少期を繋いでいきたいという気持ちが育っていきました。それからも子供なので様々なものに興味を持ちましたが、こんなにも感情を揺さぶられるスポーツはありませんでした。

ー実際にレスリングを始めたのはいつ頃ですか。

中村）5歳です。美憂先生の引退を期に本格的に始まりました。当時の憧れはカーロスニュートン選手。UFCで現役チャンピオンだった時に約半年、家に住んでいたことがあり、UFCのベルトを飾っていたのですが、家族のような存在でした。

―同期はいますか。

中村）年齢は僕より2歳下ですが、山本アーセンは同期です。僕の家で生活していたこともあり、兄弟のように過ごしていました。

ー山本アーセン選手について、印象に残っていることはありますか。

中村）6-7歳の時、アーセンが持っていた金色のおもちゃのベルトを懸けてプライドごっこをしました。当時僕は見ていた試合数が非常に多かったので、寝技で勝って、そのベルトをしばらく家に置いていたことがあるんです。アーセンは今でもその当時のことを根に持っていると話していますね。もうそのおもちゃはないんですけど、今回アーセンが勝ったときにそのベルトを着けてあげられたら面白かったですね。

ーお父様はどのような人でしたか。

中村）世話をするのが好きで、話を聞くと何でもしようと思う性格だったようでファイターにはよくしていたみたいですね。ただ、競技に関しては全く口出しをしない人だったので、僕の試合に1回も見にきたことはないです。オリンピックに出たら見に行ってやるよって言っていましたが、面倒くさがりなのでもしオリンピックに行っても見に来なかったかもしれません。ちなみにデビュー戦から3試合はパンツの後ろに父の名前を入れていました。

―学生時代の練習頻度は？

中村）小学生の頃は週2,3回、中学生から毎日でした。小学生の時は水泳がメインでした。

ーいつ頃から「自分は強いかも」と思うようになりましたか。

中村）幼稚園の年長、最初の試合で優勝した時ですが、その後は勝てない相手も大勢いましたし、運動能力もスポーツテストも下の方だったので、あまり思ったことはないです。自分が強いという感情よりも、「何で同じ体重なのにこんな動きができるんだろう」「何で自分はできないんだろう」と、むしろコンプレックスがありました。

ー自分より優れていると感じた相手に、どのような対応をしていましたか。

中村）人を見るのが好きだったので、力の出し方や、特徴を真似ていました。取り入れるまではいきませんが、自然と遊びの延長で真似をすることは多かったです。

ーだんだんと強くなり、大会での優勝回数も増えていきます。強さの要因は何でしょうか。

中村）諦めの良さです。昔から能力的にも諦めているし、性格もサッパリしていて諦めるのが早いからこそ固執しない。レスリングでも1個の技が駄目だったら次はこれをしようと、他の人よりも早く諦めて、次に行けるのが良さなのかなと思います。格闘技はこだわりが命を落とすっていう部分も多いと思うので、こだわりは全くないです。

ー高校時代の成績を教えてください。

中村）世界カデット、17歳以下の世界選手権で三位になりました。

ーオリンピックが絡んだのは？

中村）大学3年のリオ、2019年の東京オリンピック選考会です。リオの選考会時には毎回勝てる必殺技の型にはまったのに、審判のつま先を掴んだと止められて、動揺したのか4点リードから捲り返されて8対6で負けました。心が動揺したことが敗因です。東京オリンピックは2019年12月にトライアウトを受けて優勝するしかない状態でした。2月に肩を脱臼・手術して、決勝までは行けたのですが、乙黒拓人選手だけは穴がなく、直前で頭を剃って、死んでもこいつの足を離さない、というマインドで挑んだのですが敵いませんでした。