インタビュー | 2024.3.6 Wed
『子供の頃の夢を叶えるには今しかない』
彼はJFKO全日本大会2連覇、白蓮会館全日本大会で5度の優勝経験を持つK-1ファイター、山口翔大選手。
フルコンタクト空手で日本最強と称されていた空手家が30歳を超えて、周囲の反対を押し切りK-1の世界へ足を踏み入れた。
試合中も将来に対しても俯瞰して見れる山口選手ですが、心の奥底には少年時代の夢が色濃く残されていました。
山口 翔大 (やまぐち しょうた)
所属:TEAM3K
生年月日:1990年7月9日
身長:178cm
出身地: 大阪府堺市
経歴:
W.K.O世界大会優勝
KWF世界カラテグランプリ優勝
JFKO全日本大会 2連覇
白蓮会館全日本大会5度優勝
正道会館全日本大会優勝
(一社)極真会館全日本ウエイト制優勝
RKSクルーザー級王者
その他、多数
冷静に戦えているのは空手時代の経験があるから
―2023年12月9日に行われた星龍之介選手との試合から数ヶ月経っていますが、現在のコンディションはいかがでしょうか。
山口)次の試合はまだ決まっていませんが、コンディションを戻しやすくするために普段からなるべく高い基準でコンディションを保つことを意識しています。ずっと追い込んで練習を続けられる年齢でもないので、怪我に気をつけてやりすぎないように、かつさぼりすぎないように日々取り組んでいます。
―前回の試合は壮絶な打ち合いを制しての勝利でした。勝利の要因はどこにあったのでしょうか。
山口)すごく冷静でいられたことが勝因だと思います。1Rの最初、開始20秒頃にダウンを取られましたが、冷静にセコンドの声を聞き、タイムを見て、落ち着いて対応できました。空手時代から競技歴が長いので、経験値ですね。
―星選手も空手出身の選手ですが、空手家との対戦は特別な気持ちになりますか。
山口)星選手が所属していた空手の団体は、僕がいた団体とは関わることのない団体だったこともあり試合をしたことがありませんでした。空手時代から考えるとありえない組み合わせなので、K-1ルールでは負けられないなという思いがありました。
―これまでK-1で6戦無敗です。勝ちを積み上げられている要因をお聞かせください。
山口)空手で培った経験値のおかげで冷静に勝負に挑み、状況判断ができていると思います。試合中にパニックにはなることはなく、6戦とも冷静に取り組めました。10代や20代前半の時は、試合中に冷静でいることの方が珍しいくらい慌てる時もありましたが、経験値が増えるごとに落ち着いて試合に挑めるようになっていきました。
子供の頃は空手が嫌で仕方なかった
―改めて山口選手の幼少期を振り返っていきたいと思います。まずは空手との出会いをお聞かせください。
山口)大阪府堺市出身で、親の勧めで5歳の頃に空手を始めました。両親に空手の経験はなかったのですが、漫画やテレビの影響を受けてやらせてみたかったようです。本当は野球やサッカーをやりたかったのですが、運動神経があまり良くなく球技が苦手だったので、空手以外のことはできませんでした。
―ご両親に勧められて空手を始めることになりますが、実際に始めてみて空手に対してどういう印象を持ちましたか。
山口)空手を始めた当初は道着を着るのが嫌だったことを鮮明に覚えています。多分みんなが思うことですが、殴られるのも痛くて嫌ですし、しんどいし、当時はつらかったです。
―最初は苦手だった空手を面白いと思い始めたのはいつ頃からですか。
山口)中学、高校からですね。精神的に成熟してきたこと、負けず嫌いになってきたので試合中に諦めることがなくなり、精神的にぶれなくなりました。中学生の頃には全国区の大会でも勝てるようになりました。
―空手家として生きていこうと思い始めたのはいつ頃ですか。何かきっかけがあったのでしょうか。
山口)高校生の時です。進学した高校にはフルコンタクト空手部がなかったので、道場に通っていましたが、道場の師匠が空手家としてすごく実績のある方で、その方に憧れて世界大会などを本格的に目指したいと思いはじめました。
―JFKOの全日本大会は第4回、第5回大会と優勝、さらに白蓮会館全日本大会で5回も優勝されています。様々な大会で優勝経験がある中、どのタイトルが一番印象に残っていますか。
山口)JFKOの全日本大会優勝を目標にしていたのでJFKOでの優勝ですかね。日本で一番大きく、流派の垣根を超えた統一の大会なので今も空手をしている人はJFKOの大会を目指している人が多いと思います。
(本人Instagramから引用)
―世界大会では多くの外国人選手とも戦われましたが、戦い方など日本人選手との違いを感じる事はありましたか。
山口)自分も体は大きいですが相手の体格も大きいので小手先の技術ではどうにもならないインパクトを感じることはありました。外国人選手の骨の強さというか強度について語られる方もいるとは思いますが、僕は基本的に攻撃をもらわないのであまり感じませんでした。ただ単純に立っているだけでも大きく、フィジカル的にも削られていく印象が強かったですかね。
―山口選手の試合を見ていると、ディフェンスをしっかりとするスタイルが印象的ですが、空手時代からそのプレースタイルは変わっていないのでしょうか。
山口)空手時代から守備がメインです。10代、20代前半までは何も考えずにやられてもやり返すみたいなノリでいましたが、20代後半からはディフェンスメインで、相手からの攻撃をもらわず、自分の攻撃を当てることを意識しています。
子供の頃の夢を叶えるには今しかない
―2021年に空手からキックボクシングに転向した理由を教えてください。30歳を超えてからの転向は珍しいですよね。
山口)正直アホですよね(笑) 子供の頃の夢は、極真の世界大会出場、K-1選手になること、そして宇宙に行くことでした。極真の世界大会では、目標を達成することが出来ました。その後、目標を見失って少し燃え尽き症候群的なものがあって。今後どうしようかなと思っていた時に、「宇宙に行きたい」「K-1選手になりたい」と子供の頃に言っていたことを思い出しました。宇宙にはお金があれば20年後でも行ける可能性がありますが、K-1選手は体が動く今しかできないので31歳の時に転向を決意しました。テレビで見てた頃は空手出身のK-1選手が好きで、ニコラス・ペタス選手、フランシスコ・フィリオ選手、グラウベ・フェイトーザ選手、アンディ・フグ選手に憧れていました。
(本人 Xから引用)
―キックボクシングに転向する時にアジャストするまでに時間がかかると聞きますが、山口選手はいかがでしょうか。
山口)まだアジャストできていませんし、年齢的にも体も頑固になってきているので完全にアジャストできることはないのかなと思っています。転向して3年目ですが、すぐにできることではないのかなと。22-23歳の若い頃だと、5年あれば絶対できたと思いますが。
―キックボクシングに転向して一番難しいなと感じたことは何でしょうか。
山口)技術、精神、体は通用すると思っています。しかし違う業界に行くことで組織内外から「違う競技だから無理」「通用するわけがない」という声が挙がっていました。そのような声に心が削られてしまうと戦えないので、世間の声から耳を塞ぎ、自分のやりたいことを貫くことが一番難しいと思います。僕は親にも止められましたが、普通の反応だと思います。自身の道場も手放し、最後の挑戦をしています。
―キックボクサーとしてのデビュー戦はどのように決まったのでしょうか。
山口)空手時代から出てほしいと言われていた地元のRKSという小さな団体でデビューしました。もともと繋がりがあったので試合が決まるのは非常にスムーズでした。
―デビュー戦の後にもう一戦して、その後、K-1にステップアップされています。実際に戦ってみてK-1の印象はどうでしょうか。
山口)K-1は基本的に東京の団体なので、地方の選手達と東京で活躍する選手達とのレベルの差を感じました。空手時代も同じことを感じましたが、日本で一番大きい組織の新極真にいるトップ選手達と、僕達、他流派選手達では選手層も、かけている思いも違います。みんな本気になったら格闘技で飯を食うと決めて東京に出て来ているので、強い思いを感じます。
―年齢を重ねるとトレーニングのやり方も変わってくるかと思います。普段のトレーニングで気を付けていることはありますか。
山口)アマチュア競技の空手と違うところがプロの興行なので、2-3週間前に急に試合と言われたりすることがあります。その試合に僕が対応しきれていないので、しっかり準備期間がある試合しか受けられておらず、プロのアスリートとしては失格だと思っています。なので、今までは試合が決まってから身体を作っていましたが、最近は日頃からある程度高いレベルで自分の体を維持していないと駄目だなと頑張り始めています。
―RDXアンバサダーを務めて頂いておりますが、商品の使用感はいかがですか。
山口)トレーニングでよくキックミットを使うのですが、作りがしっかりしていてとても良いです。すごくしっかりした作りなのに価格も安かったのでびっくりしました。
他社で買ったらこのクオリティのものは倍くらいしますもんね。
―今後も是非、RDXの商品をお使いください。今後の目標はK-1のベルトの獲得でしょうか。
山口)K-1のベルトを獲るためにK-1に来たので、K-1のベルトが最優先の目標です。もちろん宇宙にも行きたいので、ネックになっている費用面も解消したいですね(笑)
―最後にお聞きします、山口選手にとって、プロとはなんでしょうか。
山口)うーん、難しいですね。アスリートという括りでいいますと、優先順位の一番を競技にできる人だと思っています。その考えがプロにも通ずるかなと思います。
―ありがとうございます。今後のご活躍に期待しております!
編集後記:今回のインタビューを通じて感じたのは、少年時代の夢というのは幾つになっても人を動かす原動力だなと感じました。そして夢を目指すためには何かを失う覚悟も必要だということ。山口選手がK-1のベルトを取り、宇宙旅行に行ける日を私も心待ちにしております!
(RDX Japan編集部)
インタビュアー 上村隆介