GLORY BEYOND DREAMS 小笠原快選手インタビュー

GLORY BEYOND DREAMS 小笠原快選手インタビュー

インタビュー | 2024.1.9 Tue

覚悟を持って空手家として生きている

彼は2023年11月に行われた「第2回総極真世界空手道選手権大会」の組手部門一般男子重量級で準優勝をした小笠原快(おがさはら かい)選手。

選手として注目を集める傍ら、指導者として道場の運営にも関わっている。

サッカーから空手に転向した少年時代。
礼儀の大切さを教えてくれた空手への想い。

小笠原選手の将来の目標や、今後の展望についてインタビューしました。

小笠原 快(おがさはら かい

所属:極真会館大石道場
生年月日:1999年7月12日
身長: 177cm
出身地: 高知県黒潮町
経歴:第2回世界総極真世界空手道選手権大会 準優勝

世界大会、決勝の舞台で味わった悔しさ

―2023年11月に行われた「第2回総極真世界空手道選手権大会」では準優勝という成績を残しました。改めて大会の感想をお聞かせください。

小笠原)コロナの影響で7年ぶりに開催された大会でしたが、この4年間でしっかりと準備ができるとプラスに捉えるようにしていました。

今回は、外国人選手もそうですし、他流派の強豪選手がたくさん出ていたので、重量級が1番危ないと言われてた大会ではありました。その中で、決勝まで勝ち上がっていけたのは良かったと思っています。

最後は他流派の選手と戦って、ラスト12秒まで試合を有利に進められたんですけど、思いもよらぬところで、拳が汗で相手の体を滑ってしまって。自分の前腕が、相手の顎に入ってしまい、最後は一発失格負けという形で終わってしまったんです。

自分でも今までで最高の努力をしてきたつもりだったので、本当に悔しかったです。「こんなことあるんだ」って思いましたね。今まで反則を取られたことはなかったのに、世界大会の決勝の舞台で、初めての反則でしかも一発失格負けになるとは、思いもしなかったです。

極真の今までの世界大会の歴史上でも1回もそういうことがなくて「やってしまったな」と。相手選手にも申し訳ないですし、何より家族、友達、スポンサーさん、会場で応援してくれた人に、申し訳ないという気持ちが強いですね。

―今回「総極真世界空手道選手権大会」は2回目とのことですが1回目と2回目の大会で、盛り上がりなど変化はありましたか。

小笠原)総極真が団体として発足してから12年になって、YouTubeやメディア露出などが増えてきたので、 選手の実力も、知名度も上がってきてるのかなっていうのは今回の大会で感じました。

―現時点での目標は、4年後の世界大会での優勝でしょうか。

小笠原)現時点ではそうですね。総極真の世界空手道選手権大会は、僕としては通過点というか。JFKOっていうフルコンタクト空手の団体があるんですが、そこが主催して、いろんな流派の団体が集まる大会があるんです。 それが今年の5月に開催される「第9回全日本フルコンタクト空手道選手権大会」で、その全日本で優勝したいです。

それと、自分の流派での全日本と、世界チャンピオンっていう、3つのタイトルをとることが自分の中ではゴールです。

―今回のインタビューでは小笠原選手の過去を振り返っていきたいのですが、まずは幼少期について教えてください。

小笠原)生まれは高知県黒潮町です。一本釣りが有名な港町です。

しかし2歳の頃には親の都合で静岡で暮らし始めました。

空手との出会いは小学2年生の時です。当時、サッカーの少年団に入っていたんですが、 道着を着た空手少年と、少林寺拳法をやっている少年が戦うテレビ番組の企画を見て「空手かっこいい!」と思ってサッカーをすぐにやめて、空手に入った形です。

―数多くのタイトルを獲得されていますが、学生時代から大会では優勝をされていたのでしょうか。

小笠原)学生時代は、県大会ぐらいは優勝していました。小学校5年生の時に、 全日本のベスト8に入ったんですけど、そこで優勝できなかったっていうのが悔しくて。

それまでは努力するといっても、「誰かに怒られるから」っていう、やらされてた努力だったんですね。受動的な努力から、能動的に努力をするようになったので、全日本がきっかけで入賞がすごく増えましたね。

―空手を始めてから、ご自身の行動や考えに影響が出ることはありましたか。

小笠原)小さい頃から、アクティブな性格で常に遊んでいたい、動き回りたいっていう少年だったんですけど、最初は形だけでもいいから礼儀をしっかりしていれば評価されるし、それが嬉しくて続けていました。継続していけば感謝の心が出てきて、いずれ本物になるということは学べたと思います。

というのも、年齢が上がるにつれて、周りが失礼だなって思うことが増えたんです。目上の人に対して、態度とか立ち方もピシッとしてないし、 聞き方も良くないなっていうのを感じたり。

道場での礼儀作法の基準が高いから、普通の生活で関わっている人との態度の差を感じるようになりました。その時に「どこに出ても通用する礼儀を道場で教わっていたんだな」と気付きました。

―師範から多くの事を学んだ学生時代だとは思いますが、特に印象に残っている言葉や出来事はありますか。

小笠原)「道場での考え方とか努力の仕方っていうのは、道場以外でも生きる」っていうのはすごい言われて特に印象に残っていますね。

「空手家としてやっていく」 決意したきっかけとは

―どのタイミングで、空手家として生きていこうと思い始めましたか。

小笠原)僕が空手で今の道場の代表に弟子入りしたのが、3年前の21歳の時だったので、それまでは一切なかったですね。それまでは仕事をしながら、空手の選手もやろうって思っていました。内弟子にならないか、というのは時々誘われてたんですけど、そこまでの覚悟はその当時はまだなかったです。

僕の兄弟子で日下部兄弟という兄弟がいて、僕の先に内弟子になった2人なんですけど、彼らに何度も誘われて入ったのが最初のきっかけです。

アマの人達はみんなそうだと思うんですけど、仕事をして、 道場での指導もして、自分の練習もしてって大変なんですよね。1つに集中できないのがすごく難しく感じました。

そういう経験をしていたので、「空手にかけてやってみるのもありなんじゃないか」と、考えてはいたんです。実際に、全国各地、JFKOや大阪の大会だとか、様々な団体に挑戦させてもらって、その中で、自分の中での力不足をすごく感じたことも大きな理由です。

空手に1回かけて、選手としてどこまで行けるのかを賭けてみたいなと思ったのがきっかけで、今に至ります。

―もし後輩から「空手家として生きていきたい」と相談されたら、どんなアドバイスをしますか。

小笠原)最初は覚悟を持てるかどうかで、あとはその覚悟の志を遂げる為に貫き通せるかが必要だと伝えます。

―運営側にまわって、難しいと感じたことを教えてください。

小笠原)今までは自分のことだけを考えていれば良かったんですけど、 道場生の成長のことを考えると、悩むことはやっぱり増えます。どうやって強くさせてあげようとか、 礼儀作法をどのように身につけさせてあげようかなっていうのを、1人1人に合わせてやろうと思ったので、そういうことをすごく考えるようになりました。

―反対に良かったと感じたことを教えてください。

小笠原)いろんな人に伝える方法を考えた結果、自分の空手がすごく向上したなってのはありますね。自分が今まで感覚的にやってたのを、理論で説明できるようになったというか。

人に伝えるってなったら、感覚だけでは伝わらないので。

―小笠原選手みたいに、空手家として生きていきたい人は結構いらっしゃるんですか。

小笠原)うーん、やっぱり少ないですね。

空手家になりたいと夢見てもらうためにはどうすればいいのかなっていうのはよく考えますね。

色々サポートを受けながらですけど、SNSとかそういったものを活用して、露出度を上げていくしかないなと思っています。

―上下関係の厳しさは良い面もありますが、下の人の意見が上がりにくいという弊害もあります。空手業界でも最近は指導等が変わってきたとお聞きしましたが、現状どのように感じていますか。

小笠原)最近は時代に合わせて、上からの押さえ付けだけではなくて、下からの突き上げが業界としても必要だという動きがあります。若手が育たないことにはどうしようもないので。

下の世代にスポットライトを当ててやっていこうという団体はすごく見受けられます。結局は抑えつけすぎて若い世代が空手を辞めたりすることは業界としても盛り上がらない一因になってしまうので。

野望を胸に、2足の草鞋で活動を続ける

―今は指導をする側でもありますが、子供に指導する時に気を付けていることを教えてください。

小笠原)礼儀を教えるとは言ったんですけど、暴言とかきついことは言えないとか、体罰が無理なことには変わりはないので、怒らないようにはしてます。声をあげて怒ることは一切ないですね。

感情的に怒るのではなくて、周りくどくてもいいから、礼をする意味を説いていく感じです。今の子供って、昔の子供より賢いですね。自分の理になることは頑張れるけど、理にならないことは昔の子よりは頑張れない。だから、「どうしてこれが必要なのか」という、理になることをまず教えるっていうことを意識しています。

―空手は防具をつけないスポーツという印象が強かったのですが、トレーニングではグローブを使われてるそうですね。

小笠原)そうですね。グローブを使わなくてもできるにはできるんですけど、選手寿命を縮めてしまいます。 無茶をするよりもサポーターつけてでも長くやって、得られる経験値を増やした方がいいと思うので、防具を使ってやっています。

―RDXのグローブを使って頂いてますが叩き心地はいかがでしょうか。

小笠原)すごく使いやすいです。ミット打ちもそうですし、スパーリングでも使いやすいです。 空手のグローブって、どうしてもちょっと薄いんです。肉が厚い部分を叩くようにできているから薄くて、自分の攻撃力が上がると怪我をするんですよね。RDXグローブは中に入ってるクッションが厚いので、怪我の防止につながっています。

―小笠原選手がInstagramに投稿した「跳び後ろ回し蹴り」の動画再生回数が68万回を超えています(※2024年1月現在)。この動画を見て「やってみたい!」という子供も多いかと思うのですがこの技は習得するのは難しいのでしょうか。

小笠原)理論さえ分かればできますね。ただ相手にかわされたら試合も止まっちゃうし、全体的に印象が悪くなってしまいます。

一撃必殺なので、試合中はやっても1回かなとは思います。1回当てて1回で倒しきりたいっていう、自分の中で美学のようなものはあります。

―外国人選手と戦うときに意識していることはありますか。日本人選手と戦う場合と、全然違うと思いますが、どうでしょうか。

小笠原)日本人選手とは体格が違うのもあるんですけど、やっぱり骨が硬いので、明らかにダメージの量が違う。なので、まともにもらわないことを意識します。

接近戦の場合だと間が開けられないので「スリッピング・アウェイ」じゃないですけど、体のさばきで、当たった瞬間に体をひねって力を逃がす感じです。

見てる側からすると、選手がそれをやってるのって道着で全然分からないと思います。でも本当に繊細な技術をみんな使っていて、特にトップの選手は全員ほぼ使ってると思います。

1日何試合もまともに攻撃を貰ってたら何試合も戦えないので、 見えない技術っていうのはすごくあるのかなって。

あくまで攻めて勝ってるように見せて、なるべくスタミナの消費をかけるんだけども、抑える。そこの計算が、トップの選手はうまいかなっていうのは、すごく感じますね。

―健康管理や、ダメージを受けた後のリカバリーも大事になると思いますが、意識している健康管理法を教えてください。

小笠原)健康管理法としては、睡眠は大事だと思います。筋肉のケアも大事ですけど、体を休める、回復させるところの機能を上げるのは、睡眠だと思います。

自分で検証したんですけど、睡眠する前に携帯を触らないだけで睡眠の質が違いますね。

明らかに回復の仕方が違うんです。 朝起きた時、目覚めた感覚も全然違います。だから、寝る前の1時間前はもう触らないようにしています。

ただ食事は、割と体に悪いものが大好きです(笑)

ラーメンとか大好きで毎日食べたいぐらいなんですが、選手としてやる分には足かせになるところがやっぱり大きいですね。試合が終わった後のジャンクフードがモチベーションの1つにはなっています。

空手を取り巻く環境を少しでも良くしたい

―他のスポーツ、もしくは他ジャンルで尊敬されている方はいますか。

小笠原)サッカーの本田圭佑選手です。本田選手の考え方がすごく好きで、受け取る人によってはすごく極端な人ですけど、スポーツ選手から見れば、正しいことを言ってるなと思います。考え方の部分とか努力の仕方について、学ぶべきところが多い人かなと思いますね。

日本人ももっとできるんだぞ!っていうマインドを植え付ける努力をしてる人だと思います。

僕も従順になり過ぎたところがあった時に、本田選手を見てすごいなって感じたんです。確かに礼儀とか、上の意見を聞くことも大事だけど、主張するっていうのも大切だと思います。

―空手家としての、今後の野望みたいなのってありますか。

小笠原)空手家としては、自分が弟子入りしてる大石代悟という方が道場を2000人規模にした方なので、僕も同じようにめちゃめちゃ大きい道場にしたいですね。

あとは、道場もやりつつ、接骨院やジムも併設したいです。道場にいろんなものを複合して、学べる環境を作っていくのが自分の中での1つの野望です。

―最後に、小笠原選手にとっての「プロ」とは何でしょうか。

小笠原)覚悟だけかなと思います。それさえ決まってればなんでもできる。僕はそれで出来ているので、やっぱり覚悟が必要かなと思います。

―ありがとうございます。世界と戦う姿をこれからも応援させて頂きます!

編集後記:
落ち着きを持ち、丁寧な口調で言葉を紡ぐ様子は、24歳には思えないほどの深みを感じさせられました。小笠原選手が語る空手を通じた成長は、単なる強さだけでなく、洗練された人間性も備わっていることを理解させられました。これからも、空手の魅力を、世界中の人々に発信していって頂きたいです!
(RDX Japan編集部)
インタビュアー  上村隆介

小笠原 快

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